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科学技術社会論学会 (Japanese Society for Science and Technology Studies)  
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2017/06/24 Saturday 12:37:43 JST
 
 
2006年度受賞者の成果報告 PDF プリント メール

柿内賢信記念賞研究助成金
2006年度受賞者の成果報告

 

1. 高校生向け授業の中で科学者は何を学ぶのか?- 経験者へのインタビュー調査を通して -
山内保典(名古屋大学大学院情報科学研究科)

柿内賢信記念賞奨励賞を励みに,名古屋大学大学院教育発達科学研究科による「高大連携によるキャリア教育プログラム開発事業」との連携で,「研究者による高校生向け講義の収録・テキスト化」および「講義担当者へのインタビュー調査」を進めてまいりました。このようなコストのかかる研究を進めることができたのは,柿内賢信記念賞奨励賞によりサポートを頂いたからです。心より感謝しております。研究として未完成な状態ですが,中間報告をさせて頂きます。

【進捗状況】

・授業内容のテキスト化
2007度に名古屋市にある高校で実施された4講座(理学探求講座,生命科学探求講座,地球市民学探求講座,法学探求講座)の40講義(各講座10講義×4)を収録し,テキスト化いたしました。

・インタビューの実施
2007年12月現在,23名の講義担当者へのインタビューを完了しました。現在,インタビューのテキスト化を進めています。インタビュー調査は一段落ついた段階ですが,これから分析を行う中で,補足インタビューの必要が生じた場合は追加していきます。

【研究展望】

・中等教育に関する研究として
主に授業内容の逐語録を用いて,授業の内容分析を行い,研究者が行う授業の特徴を検討します。中等教育において,研究者にできることと,できないことを明らかにすることにより,高大連携型教育のあり方を見直す基盤とする予定です。

・科学コミュニケーションの教材として
講義担当者の先生方のご協力を得ることができれば,研究者によるアウトリーチ活動を支援するために実践集を作成したいと考えています。講義の逐語録には,数多くの工夫が含まれおり,こうした事例の蓄積と共有化が,アウトリーチ活動への抵抗感を低減することが期待されます。特に,この資料集のユニークな点は,実践に対して,生徒,講師,教育研究者という異なる3者からのコメントが得られる点です。それぞれの立場により,授業の見方にどのような一致・不一致があるのかを具体的に提示することで,相互理解が深まり,教育実践が充実すると考えています。

・科学コミュニケーションの研究として
持続的な科学コミュニケーションを実現する上で,研究者にとってのベネフィットを示し,同時に様々なコストを低減することが必要だと考えています。高校生とコミュニケーションを行った研究者が,実践の中で感じた「気づき」や「学び」,あるいは「困惑」には,その問題の解決に有益なヒントが多く含まれていると考えられます。そこで本研究では,インタビュー調査により「気づき」や「困惑」を集積し,分析します。

【報告予定】

インタビュー調査の報告について,第1報として,研究協力をしていただいた「高大連携によるキャリア教育プログラム開発事業」の報告書(2008年3月予定)にまとめさせていただきます。そこでは,授業担当者の「授業の狙い」や「高校生に対する思い」などをエピソード的な形で報告する予定です。

その後,分析を行った上で,学会発表と専門雑誌へ投稿する予定です。どのような問いに焦点を絞るのかは現在思案中です。投稿先としては,科学技術社会論学会,教育心理学会などを考えています。

調査を担当した私にとって,インタビュー自体が大変刺激的な体験でした。いちはやく,この面白さを言語化し,共有可能な形にして,皆さんのお手元に届けたいと思います。

【最後に】

 私は,柿内賢信記念賞に若手育成のための奨励賞があることを,大変意義深く感じております。実際に,このような時間のかかる研究をすることは,キャリアにとって不利になるのではないかと悩んでいた私にとって,この受賞は大きな励みとなりました。末永く,この賞が若手研究者を鼓舞していくことを,心より願っております。改めまして,このような研究をするチャンスを頂きましたことを感謝いたします。

 


2. 「人格」の構築学:自閉症をめぐる科学技術、政策、実践の多元的関係の解明
研究成果報告
猪瀬浩平(明治学院大学教養教育センター)

柿内賢信奨励賞の授与を受け、自閉症療育機関で行ってきたフィールドワークの調査データを体系的に整理することが可能になりました。一方で、見沼田んぼ福祉農園で行っているフィールドワークで必要不可欠な写真記録が残せるようになりました。後者については特に、高画質の写真が撮影できたため、効果的なプレゼンテーションが可能になり、研究者ばかりではなく、福祉農園の現場の人々や、他の関係団体の人々との情報交流が活発になりました。特に1年前には想定していなかった、アートとケアの融合をめざす活動を行う実践者との交流がもてたことは、プレゼンテーションの向上によるところが多いと考えております。科学とアート、科学とケアという新しい視点も、この出会いの中で持つことができました。助成金をいただいたことに大変感謝をしております。

調査記録に関しては、現時点では『社会臨床雑誌』(社会臨床学会発行)での二回の論文発表を行うとともに、『支援の障害学に向けて』を分担執筆いたしました。これに加えて、国立民族学博物館の共同研究「ソシアル概念の再検討 ― ヨーロッパ人類学の問いかけ」で口頭発表をさせていただきました。

今後、自閉症の科学人類学と、環境-福祉の論理を媒介するものとしての科学技術の問題について検討を深め、また関係する研究者・実践者との議論を深めながら、科学技術社会論学会や文化人類学会、環境社会学会、日本ボランティア学会、そして国際科学社会学会等で学会発表および論文投稿を行っていきたいと考えております。

□ 論文

猪瀬浩平2007「予後を生きる:自閉症の治療教育をめぐる未来性」『社会臨床雑誌』15(1)14-19頁
猪瀬浩平2008(刊行予定)「"偶発"的解体、"偶発"的連帯(上):1988「埼玉県庁知事室占拠事件」における非=同一性」15(3)

□ 著書

猪瀬浩平2007「障害者であっても、地域であたりまえに生きる:共育共生運動から、福祉農園開園までの人々の物語」、横須賀俊司・松岡克尚(編著)『支援の障害学へ向けて』、現代書館:151-173頁

 

3. 自立した技術者像の実践的探求-テクノロジー・カフェ、技術(者)倫理教育等の実践を通じての、新しい技術者像の創造研究-
研究実施者 :比屋根 均  所属:(社)日本技術士会中部支部 ETの会

1. 研究成果報告

本研究は、日本のプロ技術者である技術士による技術者倫理の研究会:(社)日本技術士会中部支部ETの会の主要メンバーによって実践的に行なわれた。研究目的はJABEEの教育課程認定基準でも目的とされている"自立した技術者"とはどういうものか、あるいはそれを実践すること、またはその具体的な課題や道筋を明らかにすることである。また研究方法は3つの分野でのコミュニケーション実践、即ち1)テクノロジーカフェ(対市民), 2)大学等での技術者倫理教育(対技術者の卵), 3)技術士.技術者内の学習活動や日常(対技術者.技術士),である。

1) テクノロジーカフェは、06年4月より通算16回(受賞決定後12回)開催し、技術者と市民が技術の営みについて生で語り合った他、インターネット(SNS)上にも「テクノロジーカフェ」コミュニティーを開設し、より濃密で継続的な場を持ってきた。

テクノロジーカフェでは、技術の不確実性(絶対安全を保証することの不可能性)を含め市民と技術者が相互理解を深める効果が実感され、またその活動そのものが技術者に市民と直接接する機会を与えることによって、技術者が自らの社会的価値、役割と責任を実感していくという点でも、"自立した技術者"への効果を感じることができた。

一方SNS上の「テクノロジーカフェ」は、テクノロジーカフェの取り組みを全国の技術者に広めるための宣伝を狙って始めたものである。ここでは言語・図示以外の直接のコミュニケーションが取れず、ネット上故のコミュニケーションの困難さはあるが、頻繁に行えるという利点もあり、今後も継続する。

2)大学等での技術者倫理教育
工学教育の場における技術者倫理教育では,2006年以降,大学での技術者倫理教育の機会を増やし,オムニバスで15コマの講義を運営するなどしてきた.これは技術倫理的知見や考え方を技術者になる前の学生に伝える活動であり,技術者として自らの技術の営みについて俯瞰的に見直す機会となった.技術者倫理を理解するには,まず工学では教えられることの少ない'技術の営み'について一定の理解を得ておく必要があるためである.このことが「技術とはどういう営みか?」という問題について考えるきっかけとなった.

その結論として,技術の営みの基本共通理解としての"技術原論"の確立が必要ではないか,ということがわかってきた.環境が人工化し高度化・複雑化・大規模化した高度科学技術社会における技術者への社会要求が技術の営みを間違いなく運営することであるならば,それには技術者自身がその営みの体系的理解を進め,"技術原論"を確立することに大きな意味があるだろう,ということである.

3)技術士・技術者内のコミュニケーションについては、'ETの会'で行っている技術者倫理や技術者の地位向上など技術者に共通の話題に関する議論が,実は市民とのコミュニケーションの前段として,'聞く・理解する'コミュニケーションの訓練となっていた.また技術士会内の他組織・全国大会等での発表や、ETの会の研究誌『技術倫理と社会』等による広報は、技術士のアイデンティティー確立にとって有益な問題提起や議論を行うことであり、代表的な技術者としての技術士に対して"自立"への問題意識普及に役立ったものと考える.

技術者倫理を学び1年前に"技術者の自立"という課題に気づいた段階から、上述のような今回の実践を通じて、理論的には「技術原論」の確立が、また実践的には3つの技術コミュニケーション(テクノロジーカフェ,大学等での技術者倫理教育,技術者相互のコミュニケーション)が、技術者の自立に向けた有効な方途として確認することができた。

なお、STS的な視点から述べるなら、科学者という真理探究者と、為政者や社会という意思決定・政策者とは異なる、作動中の科学を人工物実現という実践に移す専門職としての技術者が社会階層として"自立"することには大きな意味があると考える。

また、技術者は自らの成果は製品に結実させるのが仕事であり、科学者とは異なり通常は成果や自らのことについて語ることを仕事としておらず、このことが技術者をして社会から見えない存在にしている最大の理由である。その技術者が自ら語り始めるに至るに際し、技術者倫理教育が大きな影響を与えたことは間違いなく、技術者の社会的な意識を高める1つの社会的手段としての技術者倫理の有効性を確認できたことは、STS的な成果であったと言えるかもしれない。

私たちETの会をはじめとする(社)日本技術士会とその会員は、日本のプロフェッショナル・エンジニアとしての研鑽を続けるだけでなく、技術者階層を代表する技術者として、さまざまな局面において技術コミュニケーションをより盛んにし、そこから学び自らを変えることによって、真に"自立した技術士(会)","技術者の自立をリードする者"になることを、引き続き目指していくことになる。


<発表論文等>

1.「自立した技術者像実現の課題とSTS」,『科学技術社会論学会第5回年次研究大会予稿集』,41.
2.「テクノロジーカフェの試みから見えてきたこと」,同,51.
3.「技術士による技術者倫理の取り組みと戦略」,同,203.
4.「技術者としての技術者倫理教育の経験から」,同,279.
5.「技術士による技術コミュニケーションの試みから ~ETの会からテクノロジーカフェへの発展~」,『科学技術コミュニケーション』第1号,4.
6.「社会要求としてのプロフェッショナル・エンジニア」,『技術倫理と社会』第2号,ETの会,16.
7.「プロフェッショナル・エンジニアの独立性への一考察」,『H19年度(第25回)技術士CPD・技術士研究・業績発表年次大会論文集』,25.
8.「技術の営みに関する共通基本理解の必要性」,『日本工学教育協会平成19年度工学・工業教育研究講演会講演論文集』,448.
9.「科学技術コミュニケーション実践による教育効果の考察」,『日本機械学会2006年度年次大会講演論文集(5)』,129.
10.「"技術の営み"というアイデンティティーとプロフェッション」,『「第4回技術士CPD・技術者倫理/技術者関連倫理の研究・事例」論文集』,17.
11.「技術者の社会性向上に向けた現状と課題 ~2つのテクノロジーカフェを中心に~」,『科学技術社会論学会第6回年次研究大会予稿集』,243.

 

最終更新日 ( 2007/12/21 Friday 17:56:45 JST )
 
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