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科学技術社会論学会 (Japanese Society for Science and Technology Studies)  
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2019/09/23 Monday 01:45:39 JST
 
 
2008年度受賞者の研究内容要旨 PDF プリント メール

柿内賢信記念賞研究助成金
受賞者の研究内容要旨

奨励賞

東島仁「自閉性スペクトラム障害の遺伝的側面の研究から生じる倫理・社会的課題の抽出と分析」

現代社会における生命科学は、人類の福祉へ大きく貢献することが期待される学問領域である。その反面、再生・終末期医療や遺伝子組み換え作物、遺伝子診断などの倫理・社会的な問題を生み出す領域でもある。21世紀は心の世紀とも言われるが、生命科学領域における心の研究においてとりわけ目立つ存在が、自閉性スペクトラム障害などの「心」に関係する障害の遺伝的な側面の研究である。人間の諸特性の「遺伝的側面」の研究は、その進展が当事者集団に望ましくない影響を与えることが危惧される領域である。そのため、研究の遂行には、研究対象となる疾患を持つ人々や家族当事者と研究プロジェクトの関わり方をどのように設計するかという問題が、つねに付随することになる。だが、150人に1人とも言われる高い発症率や障害特性、遺伝的背景の複雑さなど種々の要因から、社会的にも科学的にも注目を集めている自閉性スペクトラム障害の遺伝的な側面に関する研究に付随する倫理・社会的な課題の検討作業は、特に我が国では、著しく遅れている。そこで本研究では、自閉性スペクトラム障害当事者集団および関連する人々へのインタビュー調査を中心に、自閉性スペクトラム障害の遺伝的な側面の研究に付随する倫理・社会的課題を抽出することを目的とする。さらに、それらの問題を社会的に構成する要素や、それらの関係性の明確化を試みることで、現代社会における自閉性スペクトラム障害を取り巻く科学技術と社会の関係を考察し、当事者集団の認識・意見を、研究実施の過程に効果的に組み込む手法の検討と提案を行いたい。

山本圭「ウェブ・アーカイビングにおける現代民主主義的意義の探求」

今日のアーカイブズ科学は、国際公文書会議が2008年に6月9日を「国際アーカイブズの日」と定めたことから窺い知れる様に、新しい時代を迎えつつある。アーカイブとは、過去の文書や映像、音声資料などの記録と保存を目的とする行為、およびその諸施設、機関を指すが、我が国において、縦横無尽に膨大すると同時に日々消滅していくウェブサイト(私的/公的を問わず)を収集する「ウェブ・アーカイビングWeb Archiving」の重要性が認識され始めたのは比較的最近のことである。したがって、この新技術が提起する問題は、いまだ十分に検討されていないのが現状であり、それゆえ技術的、法的観点のみならず、社会科学的知見にもとづき、この新技術が社会に与えるインパクトを明らかにすることが今日喫緊の課題であると判断される。

このような背景から本研究の目的は特に、ウェブ・アーカイビングが持ちうる民主主義的意義を研究する。確かに、情報技術と民主主義の関係はこれまで「サイバー・デモクラシー」として多くの研究が存在している。しかしながら、それらは主にインターネットが民主主義に与える影響に関するものであり、ウェブ・アーカイビングと民主主義の関連については、我が国のみならず国際的にもほとんど研究されていないのが現状である。ウェブ・アーカイビングに関して、例えば収集されたサイトが一般に公開されるとすれば、それは市民が意見を形成するに際して有用であろうし、市民社会にとって大きなエンパワメントとなることは間違いない。しかしながら他方、サイトを一律に収集、管理することは同時に監視の手段にもなりうるなどの問題点も容易に想像できよう。これらの観点をはじめとし、ウェブ・アーカイビングが民主主義にとっていかなるメリットとデメリットを有しているかに関する包括的な分析を行うことが本研究の目的である。

実践賞

小林俊哉 「国内環境研究者の環境影響・社会的影響に配慮する意識の研究」

地球温暖化問題等、環境問題は今や社会的に普遍的な課題となった。過去の公害問題が、地域的な社会問題として先ず対策が始まったことと比較すると、今日の地球環境問題は広く文化、生活、教育、科学技術等社会の全分野をカバーする普遍的な課題となっている。公害問題では、個別課題への対症療法的な施策や技術開発で対処されてきた。今日の地球環境問題は、対症療法的な対策では手に負えない事例が今後増加する可能性がある。実例として、オゾン層保護のための代替フロンが地球温暖化をCO2以上に促進する。石油代替のための穀物由来のバイオエタノール増産が穀物価格を上昇させ食料危機を招く等が挙げられる。これら新技術が新しい問題を生み出す可能性は、1970年代から指摘されていて、テクノロジーアセスメント(TA)やライフサイクルアセスメント(LCA)、環境影響評価などの概念も既に存在する。しかし、環境対策技術については依然として対症療法的な研究開発が中心で、当該対策技術が社会に広く大量に普及した場合の問題点について関心が低いように見える。環境対策技術も新技術として社会に大量に普及した場合に、新しい問題を生み出す可能性はありうる。また今日の地球環境問題は、かつての地域的な公害問題と異なり対症療法的な対策では対応が困難になってきているとともに、環境問題の規模がグローバルに拡大していることから、上記の「新しい問題」が発生した場合、その影響もまた、より大きなものになりうる。こうした問題を解決するためには、環境対策技術開発に携わる研究者自身が当該課題を意識し、研究開発に反映させていかなければならない。本研究においては、そのために研究者が必要な資質、知識、スキルは何か、それらを身に付ける上で必要な教育は、どうあるべきかを明確化し、社会的に適正な環境対策技術を生み出していくための条件を明らかにする。それによって大学の工学教育、科学教育等に反映させていくべき要素を明確化し、必要な研究倫理を醸成できるカリキュラム開発の基礎資料として役立たせる所存である。

最終更新日 ( 2009/05/07 Thursday 20:06:14 JST )
 
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