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科学技術社会論学会 (Japanese Society for Science and Technology Studies)  
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2017/07/21 Friday 05:35:24 JST
 
 
2009年度受賞者の研究計画要旨 PDF プリント メール

2009年度受賞者
研究計画要旨

学会賞:

杉山 滋郎「「討論型世論調査」を科学技術への市民参加に活かす可能性を探る」

科学技術と社会の境界面に生ずるさまざまな課題の解決において、「科学技術への市民参加」が不可欠である。そして、そうした市民参加を実現するための手法として、コンセンサス会議や対話フォーラムなどが開発され、また実践されてきた。

しかし、コンセンサス会議など討議性を重視する手法には、それ固有の難点があると感じてきた。それは、次のようなことがらである。

  1. 運営に対する労力・費用が大きく、実際の政策に結びつける形で実施するうえでの障害になりがちである
  2. 参加する市民の人数がたかだか十数名であることも、政策担当者が現実の政策に活かすときの抵抗感を生み出している
  3. 公募制をとるとはいえ、現実には「極めて問題関心の高い市民」が参集することになり、代表性(一般的な国民の意見を反映するという点)に難がある

こうした点を克服する一つの途として、James Fishkinが1991年に提唱した、Deliberative Polling(以下、DPと略記)という手法が、注目に価すると思われる。DPでは、母集団を統計的に代表するように無作為抽出した市民 数百人に対して行なうので、代表性がコンセンサス会議などに比べ、はるかに大きくなる。またDOPに関するこれまでの調査では、討議性が高いことも確認されている。

DOPのこうした特徴を考えると、これまで主として政治学の文脈で語られてきたDOPを、科学技術への市民参加を促進する一手法として積極的に考察してみる価値があると思われる。

そこで本研究では、DOPを、科学技術と社会との境界面で論議を醸しているテーマに関して実施してみることにより、科学技術への市民参加を促進する一手法としてDOPを活用する可能性について、実践的な面から、および理論的な面から検討する。今年2009年に実施したWorld Wide Views on Climate Changeでの経験も有効に活用しつつ、参加市民の選び方、情報提供資料の作成、討議の進め方、"メディア"との連携、具体的政策への反映法などについて検討する。

準備・実施・評価という3つのフェーズを完遂するのに3年間ほどの期間を考えているが、準備のフェーズ、とくに情報提供資料の作成にこのたびの助成金を使用させていただき、その成果を本学会で報告するなどして、DPの可能性や限界を関係者で共有できるようにしたい。

奨励賞:

加藤 直子「科学研究機関一般公開日の来場者調査による文化的再生産モデルの検討」

本研究は、自然科学分野の科学研究所の一般公開日に来場する人々に対し、属性と科学的および文化的消費行動の関連に関して質問紙調査を行い、来場者の動向や嗜好を分析し、科学コミュニケーションに関する理解を促進することを目的とする。

文部科学省の科学技術基本計画を受けて、現在多くの科学研究所は、毎年一般公開日を設定し、来場者に対する活発な情報発信を行っている。国立の自然科学研究所の一般公開日には、数千名の来場者を迎える研究所も多い。広報機能の充実や活性化に力を入れている科学研究所も確実に増加しており、科学者の説明責任とリスク管理に関して一定の効果を発揮しているといえるだろう。しかしながら、科学における「双方向のコミュニケーションの充実」という面においては、比較的未整備な状態にあるのではないだろうか。研究所からの発信のみならず、逆方向、すなわち国民からのフィードバックを効果的に得るためには、一般公開や公開講座に参加する国民のニーズを探り、その動向や嗜好を分析し、改善点を抽出するためのCS(Customer Satisfaction)分析といったマーケティング的な視点に基づいた調査が必要である。さらに、科学コミュニケーション研究の今後の課題として、発信された科学情報の受け手、すなわち科学研究所の一般公開日に来場する人はどのような人なのか、また逆にどんな人が来場しないのかを明確に知ることが重要である。このことは、学校教育における科学教育との連携を図る上でも極めて重要であるといえる。

本研究により、科学をより広い文化的活動の中に位置づけて理解を深めることを可能にするといえる。

鈴木 貴之「ポピュラー脳科学の実態の分析と脳科学リテラシーの可能性にかんする研究」

脳画像技術の進展を契機として、近年、脳科学は急速に発展している。その研究対象は、知覚や運動だけでなく、推論や意思決定といった高次の認知機能にまで広がっている。研究成果を紹介する一般向けの著作も数多く出版され、テレビや雑誌などのメディアにも、脳にかんする言説があふれ、「脳科学ブーム」とも言うべき状況が生まれている。

脳科学は人間を研究対象とするものであるため、脳にかんする言説は、大きな社会的インパクトを持つ。現在、社会に流通する脳科学的な言説のなかには、ゲーム脳理論のように、教育政策に大きな影響を与えるものや、脳トレゲームのように、巨大なビジネスと結びついているものもある。しかし、これらの言説のなかには、科学的な信頼性に欠けるものも少なくない。では、多様な脳にかんする言説を、社会はどのように扱えばよいのだろうか。

本研究は、このような状況をふまえ、ポピュラー脳科学の実態を分析し、それに対処するうえで一般市民に必要となる科学リテラシーとは何かを明らかにすることを目的とする。具体的には、以下の2つの問題を考察する。①ポピュラー脳科学の実態の分析:一般向けの脳科学関連書籍の収集および分析、先行研究の分析などを通じて、ポピュラー脳科学の類型や、それぞれの特徴・問題点を明らかにする。とくに、ポピュラー脳科学に特有なありかたや、日本のポピュラー脳科学に特有なあり方に注目する。②脳科学リテラシーを向上させる方法の考察:ポピュラー脳科学に含まれる不正確な情報に影響されるのを防ぐためには、一般市民はどのような点に注意する必要があるのかを明らかにする。また、各種の啓発プロジェクトの分析などを手がかりとして、社会がポピュラー脳科学に対処するうえで、専門家である脳科学者や、科学的な情報の媒介者であるサイエンスライターや科学コミュニケーターがどのような役割を果たすことができるのかを考察する。

実践賞:

杉井 重紀「世界で活躍する理系人材育成の方法論」

科学技術を社会に浸透させる上で最も鍵を握るのは、人材であり、それを育成する教育システムである。しかし現在、日本国内のほとんどの大学院の教育カリキュラムが、狭い領域での研究課題を学生に課すことを中心とするのみであり、他先進国に比べ未熟であると言わざるを得ない。また、国内大学院生およびポスドクの大多数が、似たような研究職に就職を希望するのに対し、米国では、 政治家、政府官僚、企業経営者、メディア関係者、司法専門家など、就職先が多岐にわたっており、これらの違いが一般社会の科学への理解度に如実に反映されていると考えられる。日米の大学院システムと就職口の違いは、米国で公表されているデータを元に、ある程度計り知ることはできるが、実際に留学している学生・修了者から実体験を元にした調査がなされたことは皆無に等しい。2000年にメーリングリストを発端にして発足した「カガクシャネット」は、現役の理系大学院留学生60名以上を含む200人以上のメンバーからなり、これまでオンライン媒体、紙の媒体、セミナー活動等を通じて、理学・工学系の大学院留学生活の実情や、海外の科学教育および最先端研究を、分かりやすく一般社会に紹介する試みを行ってきた。本研究では、実体験に基づく日米の理系大学院教育システムの比較、「なぜアメリカの院を選んだか」のケーススタディー、「注目される研究分野・研究者と求められる人材」の調査、そして海外の科学教育事情に精通し世界で活躍する人材へのヒアリング・インタビュー、の4項目を柱とする。研究結果は、 メールマガジンおよびウェブサイトでの発行、オンライン動画メディア 書籍の出版、国内での講演活動により広く一般公開される。それにより、科学技術立国にふさわしい人材を育成するための教育システムの構築を、支援できればと考える。

 
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