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科学技術社会論学会 (Japanese Society for Science and Technology Studies)  
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2017/03/27 Monday 03:57:21 JST
 
 
2008年度受賞者の成果報告 PDF プリント メール

柿内賢信記念賞研究助成金
2008年度受賞者の成果報告 

 

奨励賞

課題名:「ウェブ・アーカイビングにおける現代民主主義的意義の探求」

山本圭(名古屋大学大学院国際言語文化研究科)

まず、柿内賢信記念賞奨励賞という大変光栄な賞をいただけたことに改めて御礼申し上げます。若手研究者をめぐる昨今の研究環境が必ずしも芳しいものとは言えない状況のなかで、私のようなまだ十分な実績もない駆け出しの研究者を支援し、そしてチャンスを頂戴したことは、研究を進めていくうえで非常に力強い支えとなりました。本当に有難うございました。本賞の受賞を励みに今後も研究に邁進するつもりでおりますが、さしあたって現時点での成果について報告させていただきます。

〈成果概要〉

本研究の目的は、ウェブ・アーカイビングが持ちうる民主主義的意義とその社会的影響を追究することである。ここで言うアーカイブとは、過去の文書や映像、音声資料などの記録と保存を目的とする行為、およびその諸施設、機関を意味しているが、我が国において、縦横無尽に膨大すると同時に日々消滅していくウェブサイト(私的/公的を問わず)を収集する「ウェブ・アーカイビングWeb Archiving」の重要性が認識され始めたのは比較的最近のことである。このような背景にあって、ウェブ・アーカイビングがもたらしうるインパクトをよりヴィヴィッドに認識するために、そもそも「アーカイブズ」という記録と保存の営みが「民主主義」とどのような連関を持ちうるのかを明らかにする必要があった。ここでは現代民主主義理論、特に熟議民主主義、そして闘技民主主義において、それらのなかでアーカイブズが占めうる場があるとすればそれはどのようなものか、という関心から、民主主義理論とアーカイブズの関係について考察を深めることが出来た。

このような問題関心から本年度は主に、以下の研究成果が得られた。

  • 書評論文「大濱徹也著『アーカイブズへの眼―記録の管理と保存の哲学』」『メディアと社会』、創刊号、2009年。
  • 口頭発表「現代民主主義理論とアーカイブズ―その接点をめぐる問い」日本アーカイブズ学会、2009年度全国大会。

これらの成果をもとに研究論文を執筆し、関連学会などで投稿するべく現在準備中である。

奨励賞

課題名: 自閉性スペクトラム障害の遺伝的側面の研究から生じる倫理・社会的
課題の抽出と分析

東島仁

[はじめに]

人間という集団の中で1つの差異の形(もしくは複数の差異の総体)として捉えられ、注目を集める自閉症スペクトラム障害について、科学技術の進歩に伴って出現した知見や技術から生ずる社会的な影響を吟味してきました。その道程を大きく支えてくださったのが、柿内賢信記念賞奨励賞の助成です。科学技術社会論学会の皆様、そして財団法人倶進会の皆様に、心からお礼申し上げます。以下では2010年3月時点での研究成果の概要についてご報告させていただきます。

[成果: 概要と今後の方向性]

本研究は、遺伝情報や脳などの生物学的な情報を示す種々の科学技術の進歩が、自閉症スペクトラム障害を持つとされる人々や親族(当事者)に、直接、間接的に及ぼす影響を探り、そのような知見や技術が産出されて流通する過程に、当事者の視点を組み込む方法を模索することを目的としました。

具体的には、そのような研究に関する当事者の知識、そしてそれらの知識に根差した懸念事項、疑問点などを、約50名の当事者へのインタビューやアンケートによって測定しました。同時に、自閉症スペクトラム障害を持つ人々に関わる様々な業務に従事する方々に対して、我が国における自閉症スペクトラム障害に関する科学的知見や技術の産出・流通体制や、地方自治体、あるいは我が国全体の支援体制の特性に関する聞き取り調査を行いました。

本研究で聴取した意見の中には、自閉症スペクトラム障害の様々な側面が差異として表象されていくことが支援や周りの理解などといった社会的に望ましい反応を育む可能性への強い期待が見られました。その一方で、大きな懸念も見られました。そのような懸念を支え、自閉症スペクトラム障害を持つ人々や親族の日常生活に実際に影響する大きな要因の1つとなっているのが、科学的に妥当でない遺伝観のようです。また、差異が表象されることの社会的な結果が、障害というラベルを受けることに留まり、差異に対する対処方法が明確でない場合が多いことも、社会的課題を生じているようです。日々、新たな展開を遂げる自閉症スペクトラム障害にまつわる諸科学技術が、本研究で示されたような種々の「社会の中に形成された知見」と、今後、どのように、どのような関係を築いていくことが必要なのかという点が、これからの課題だと思っています。

本研究は、当初、「当事者の意見や視点を研究に反映させていく仕組み」の検討を目的の1つとして掲げていました。ですが本研究の結果は、我が国の場合には、研究から産出されている種々の知見が、分かりやすく手の届きやすい形で定期的な更新を受けて供給される仕組み、そして、そのような知見の流通に対する当事者の意見や視点の組み込む仕組みの必要性が、同等、あるいはそれ以上に大きいことを示しているように思います。今後、これらの点も視野に入れて研究活動を進めていく予定です。

[成果: 発表状況と今後の予定]

現在までに、学術雑誌、学会および研究会で発表した研究成果を、以下に示します。

発表論文 

  • 東島仁, 指摘された差異と、その波紋 -自閉症スペクトラム障害概念の変遷を辿る-(英題 Meanings of difference? - changes and transitions of Autism Spectrum Disorders-), 人文学報, 100号, 2010年4月発行予定.

発表学会・研究会

  • Jin Higashijima, Considering social aspects of mind and behavior research: An Autism Spectrum Disorders case. Brown Bag Lecture, University of Zurich, Zurich, Switzerland. March 2010.
  • 東島仁. 自閉症スペクトラム障害の遺伝的側面の研究における倫理・社会的課題の検討, 自閉症遺伝子研究の倫理勉強会, 金沢大学. 2010年2月.
  • Jin Higashijima, Ethical implications of research on the genetic aspects of autism spectrum disorders: A qualitative study of parental opinions in Japan. East Asian STS Young Scholar's Meeting in Kobe, Kobe University, Kobe, Japan. December 2009.
  • 東島仁・加藤和人,自閉性スペクトラム障害の遺伝的側面の研究における倫理・社会的課題の検討,日本人類遺伝学会第54回大会,高輪プリンスホテル, 2009年9月. 
  • 東島仁・加藤和人,自閉性スペクトラム障害の遺伝的側面の研究における倫理・社会的課題の検討,第9回臨床遺伝研究会,高輪プリンスホテル, 2009年9月.

未発表の結果については、少なくとも2件の学術雑誌への投稿と研究会での発表を予定しています。

1.投稿予定論文の予定タイトル

  • Public understanding of "genetic mutation" in Japan: university students and parents of children with Autism Spectrum Disorders
  • Parental attitudes of genetic/genomic research on Autism Spectrum Disorders in Japan)

2.発表予定の研究会など

  • Jin Higashijima, Science and society: Autism case in Japan, The 1st Japanese-Korean Workshop for Young STS Scholars. Soel University, Korea. March 2010.

 

実践賞

課題名: 「国内環境研究者の環境影響・社会的影響に配慮する意識の研究」

小林 俊哉
富山大学 地域連携推進機構
(前職:北陸先端科学技術大学院大学)

柿内賢信記念賞研究助成金・実践賞を受賞させていただき国内環境研究者の環境影響・社会的影響に配慮する意識の研究という、先行研究の乏しい領域に新しい地平を切り拓く一歩を踏み出させていただいたことを、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

本研究のポイントは地球環境問題の深刻化の中で、環境対策技術については依然として対症療法的な研究開発が中心で、当該対策技術が社会に広く大量に普及した場合の問題点について関心が低いように見える現状への危機感から出発しました。以下2010年1月末までの成果について報告させていただきます。

[成果報告]

本研究の研究目的に記述した通り、環境対策技術も新技術として社会に大量に普及した場合に、新しい問題を生み出す可能性はありえます。それはオゾン層保護のための代替フロンが地球温暖化を促進するなどの実例が示す通りです。また今日の地球環境問題は、かつての地域的な公害問題と異なり対症療法的な対策では対応が困難になってきているとともに、環境問題の規模がグローバルに拡大していることから、こうした「新しい問題」が発生した場合、その影響もまた、より大きなものになりえます。それゆえ環境対策技術開発に携わる研究者自身が、当該課題を意識し、研究開発に反映させていかなければならないと考えます。

そこで以下の3項目を明らかにすべく調査研究を推進いたしました。

  1. 環境研究者が上記課題に意識を向けていくために必要な資質、知識、スキルは何か、それらを身に付ける上で必要な教育はどうあるべきか。
  2. 1.によって大学の工学教育、科学教育等に反映させていくべき要素を明確化する。
  3. 1.と2.によって、環境研究者に必要な研究倫理を醸成できるカリキュラム開発の基礎資料作成と社会的に適正な環境対策技術を生み出していくための条件を明らかにすることが本研究の最終目標です。

上記の研究目的3項目に照応する、現時点の成果に基づく知見は以下の通りです。

  • 高等教育のカリキュラムとして、環境対策技術研究者に環境意識・社会意識醸成を図るのであれば、「ポストドクター教育」とでもいうべきカリキュラムが必要です。その教育内容はポスドク若手研究者自身の研究分野を俯瞰的に把握する知見を研究者に付与することです。
  • しかしながら、より高度な専門化を追求する途上にあるポスドク若手研究者に俯瞰的な視点を持たせしめることは言うは易く実行は困難の典型でもあります。研究分野ごとの特異性も考えカリキュラムを練っていく必要があります。
  • 一方で重要な取り組みは、初等中等教育段階におけるESD(持続可能性教育)を充実させることです。
  • 今回調査の事例では研究者自身の成長過程の中で公害問題が原体験にありました。
  • そうした原体験に照応する擬似経験を、これからの世代の教育に反映させることが必要です。
  • 教育目的の重要なポイントして、①環境配慮は、結局は業務、製品の効率化につながる。②環境配慮は、あらゆる人間活動の持続可能性を担保する。という観点を教育で伝える必要があります。
  • 以上の観点を「エコロジカル・インテリジェンス」として初等中等教育に反映させるべきという指摘を今回の調査で得ることができました。

今後は、こうした研究者が環境意識を形成する上での指導教員等からの影響や、後進指導への反映の実情を把握し、環境教育の発展に役立てる所存です。

 
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