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科学技術社会論学会 (Japanese Society for Science and Technology Studies)  
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2017/03/27 Monday 03:53:47 JST
 
 
2011年度柿内賢信記念賞研究助成金の選考結果 PDF プリント メール

2011年度柿内賢信記念賞研究助成金の選考結果

 選考委員(五十音順)、*委員長

*井口春和(自然科学研究機構・核融合科学研究所)
中村征樹(大阪大学)
永田素彦(京都大学)
比屋根均(ラーテン技術士事務所)
山口富子(国際基督教大学)

科学技術社会論学会では、財団法人倶進会の厚志をいただき、2005年度から「科学技術社会論・柿内賢信記念賞」(「かきうち よしのぶ」と読む)を設け、会員・非会員を問わず公募しています。7回目となる今年度は、9月15日の締切りまでに、12件(学会賞1件、奨励賞6件、実践賞5件)の応募がありました。

選考委員会では公募終了後から約1ヶ月かけて、慎重に審議を重ね、下記のとおり、奨励賞1件、実践賞2件を授与することに決定いたしました。?学会賞については、今回は該当者なしと致しました。

【選考結果】

学会賞:

  • 該当なし

奨励賞:

  • 見上公一「バイオリソースの構築に関する研究ー科学社会学の視点から?」 研究助成金 40万円

実践賞:

  • 上田昌文「食品放射能汚染の計測の合理化・適正化に関する社会実験的研究」 研究助成金 50万円

実践賞:

  • 渡部麻衣子「ダウン症に関する社会的認識の形成:「親の視点」を表現する活動としての「Shifting Perspective」(英国)の分析と実践の援助」

【選考を振り返って】

選考に当たっては、当学会の設立趣旨である「科学技術と社会の界面に生じるさまざまな問題に対して、真に学際的な視野から、批判的かつ建設的な学術的研究を行うためのフォーラム」という視点を基準に審査致しました。それぞれの応募書類について各選考委員が独立に審査・採点を行った上で、その結果を持ち寄って最終審議を行いました。応募された研究課題が幅広い上に、各選考委員の専門分野も異なるため、個別審査で評価の割れるものもありましたが、最終審査の結果、全委員の意見の一致による決定となりました。学会賞については、応募要領にあるとおり、科学技術社会論分野における実績とのつながりを重視したため、本年度は該当者なしと致しました。奨励賞と実践賞については、応募とは異なる部門における授賞の可能性についても検討致しました。応募内容を総合的に判断した結果、今回は奨励賞1件、実践賞2件が適切と判定し、いずれも応募部門での受賞となりました。

なお、選に漏れたとはいえ、研究課題や研究計画において優れた内容のものも多くあり、それらの課題についても是非研究推進の手段を見いだし、成果を上げていただくことを期待いたします。

【選評】

奨励賞

見上公一「バイオリソースの構築に関する研究 ―科学社会学の視点から―」

バイオリソースの構築という国家科学技術戦略を「生命の価値」という科学社会学的な問題意識の中に位置付けるという課題は、意欲的な取り組みであり奨励賞にふさわしいと評価を致しました。見上氏は、ポストゲノム時代における風潮を批判的に捉える欧米の研究群を紹介した上で、日本では、固有の生命の価値を形作る社会構造が有るのではないかという仮説のもと、資源の選出、資源化の過程、資源の活用という3つの観点から国家科学技術戦略を分析するという枠組みを構想されています。こうした取り組みは、科学応用についての現場研究として、また科学社会学的な日本の観察事例を増やすといった意味におい て、知への貢献につながる事でしょう。

見上氏は、インターネット上にある公開情報、バイオリソース整備戦略作業部会の議事録などの資料を精査した上で、バイオリソースの利用者を対象とし、インタビュー調査をするという方法を提案されていますが、調査対象者へのアクセスなども確保されており研究の実行可能性も高いと判断しました。

選考において、研究対象と、目的に示されている日本の独自性という仮説との整合性についての指摘がありましたが、そうした点を改善しつつ理論的深化を目指して頂きたいと思います。

実践賞:

上田昌文「食品放射能汚染の計測の合理化・適正化に関する社会実験的研究」

本研究課題は、食品放射能汚染の計測について、消費者・生産者の双方に利益をもたらすべく合理化・適正化をはかるための社会実験的研究を実施するものです。福島原発事故による食品放射能汚染が消費者・生産者に不安と混乱をもたらすなか、時宜にかなった研究課題であり、社会的意義はきわめて高いと考えます。

研究計画は、代表的食品10品目前後のセシウム汚染の推移について仮説を立て、検査の簡素化・適正化を検証するための実験を実施するとともに、消費者への適切な情報提供のあり方について検証するものとなっています。また、農畜産物の産直・共同購入を進めてきた株式会社「大地を守る会」との共同実施体制が組まれています。実施計画が綿密に練られ、実行可能性も担保されており、研究成果に大きな期待をもたせるものとなっています。

多くの関連する団体・機関や、政府関連機関等で実施される食品放射能汚染対策にも大きな示唆を与えうるような成果が産み出されることを期待しています。

実践賞:

渡部麻衣子「ダウン症に関する社会的認識の形成:「親の視点」を表現する活動としての「Shifting Perspective」(英国)の分析と実践の援助」

研究対象のShifting Perspectiveは、英国のプロカメラマンたちによる、ダウン症を持つ子供たちの写真作品を作品展やウェブサイトなどで発表する活動です。2005年の発表から始まり、英国ダウン症協会の賛同を得て進められています。渡部氏は、この活動を「親の視点」からのダウン症の社会的認識を形成する試みと見、これを遺伝学的知識と出生前診断技術という科学・技術の発展との対照の中で捉えることによって、STS的な研究課題を見出されています。

研究計画は調査分析と実践活動の2つからなりますが、特に、Ian Hackingの「ループ効果」概念を用いた、「経験の共有」を通じた包括的な「知」の形成過程としての分析など、その調査分析の計画は、学術的意義も高く評価されるものです。また、あらゆる障害や疾患に関する包括的な「知」の構築を支援する立場からのShifting Perspectiveの紹介は、日本の社会的弱者の社会との関係における知的エンパワーメントとして、そのSTS的な実践的価値の高いことは言うまでもありません。

どちらの計画も、STSの大きな枠組みでの位置づけや意図が明確なだけでなく、実行内容が具体的に示されています。海外との半構造化インタビューや分析など実際的な苦労は多いかもしれませんが、計画がうまく進められることを期待します。

【追記】

柿内賢信記念賞の募集、選考、授賞に関わる一連の業務は、2005年以来当学会が全面的に委託を受けて参りました。このたび、財団法人倶進会の方針により、柿内賢信記念賞の公益事業としての性格をより明確にするために、来年度より、公募から授賞に至る過程で倶進会自身の主体性を高め、広く国内から公募する方向の改定が行われる予定です。これまでも、応募は科学技術社会論学会員に限定してはいませんでしたが、今後はより幅広く募集広報がなされることになります。とはいえ、科学技術社会論分野の研究課題を募集対象とすることに変わりはなく、当学会としては今後も深く関与していくことになります。受賞者にとっては、競争率が高まる反面、賞の社会的ステイタスが高くなるというメリットがあります。引き続き、積極的な応募を推奨致します。

 

 
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