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科学技術社会論学会 (Japanese Society for Science and Technology Studies)  
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2017/10/18 Wednesday 22:00:04 JST
 
 
2011年度受賞者の研究計画要旨 PDF プリント メール

2011年度受賞者
研究計画要旨

奨励賞

見上公一「バイオリソースの構築に関する研究 ―科学社会学の視点から―」

本研究は「生命の価値」という考え方を背景として、日本でも国家的な科学技術戦略の一部として進められているバイオリソースの構築について科学社会学的な視点から理解することを目的としている。

バイオリソースとはその言葉が表すように生体を資源として扱うものであり、日本におけるバイオリソースの構築は研究活動の促進をその主な目的としている。もともと生命科学分野では生体資源を研究者が研究室などの単位でそれぞれ管理するのが一般的であり、他の研究室がその生体を用いて研究などを行いたい場合には個々に連絡を取り合うなどの方法で共有されていた。しかし、20世紀後半からの生命科学の急速な発展を受け、日本においても生体資源が国家として戦略的に管理すべき貴重な存在として認識されるようになってきたようである。日本におけるバイオリソースの拠点としては理研バイオリソースセンターや医薬基盤研究所といった研究施設があるが、それ以外に文部科学省では生命科学の総合的な促進を目的としてナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)を実施してきた。

科学技術社会論における近年の「生命の価値」に関する議論では特にヒト由来の生体資源が注目を集めてきたが、そのような議論の背景には医療応用に対する社会的な期待が感じ取れる。しかしながら、上記のような基礎研究の為のバイオリソースの構築については同様の議論が必ずしも適当ではないように思われる。本研究では、(1)どのような生体資源がどのような理由からバイオリソースとして扱われるようになったのか、(2)バイオリソースとして管理するということは一体どのような作業や行為が求められているのか、そして(3)バイオリソースの構築によってそれを利用する研究の環境がどのように変化しているのかという三つの観点から調査を行うことで、「生命の価値」の議論に対して新たな視点を提示していきたい。

実践賞

上田昌文「食品放射能汚染の計測の合理化・適正化に関する社会実験的研究」

食品の放射能汚染をめぐって、現在、消費者の間に不安が高まっている。そもそも暫定基準値が緩やかすぎて安全を保証しないのではないかという疑義に加えて、サンプリングの問題(検体の抜き取り数や抜き取り方が十分でなく、手にした商品が基準値以下かどうかを必ずしも保証しないという不安)や測定体制の問題(検査すべき品目の多さに対して測定器が足りないことや測定に時間がかかることなど)もあって、市場に出た産品に対しする不安がぬぐいきない。一方、検査を担う側にしてみれば、しらみつぶしに可能な限り多くの品目を測定したとしても消費者は納得してくれないのではないか、という不安を感じつつ、膨大な時間とコストかけて測定器をフル稼働させることになる。

農畜産物・水産物の産直・共同購入をすすめてきたいくつかの団体では、検査機器を新たに導入し、政府・自治体に比べてより細やかな測定とそのデータの公表を始めているが、会員(消費者)の声や動向が直接に伝わってくるだけに、検査体制が抱えている諸問題がより鮮明に現れてきてもいる。すなわち、例えば、①放射能測定時期の妥当性、②測定品目選択コンセプトの妥当性、③測定値の有効期限、④再測定した場合の「不検出」の判断、といった問題に直面している。

ここでの課題は、(1)消費者の納得を得ると同時に生産者や計測部署の負担を軽減する、放射能計測の合理化が求められているが、それを実現するには、放射性物質の挙動が関わる、土壌、生物体の構造、生態、生育・生理にかかわる必要な知見を整理し、それらの知見を実際の検査体制の合理化にどうつなげることができるかを探ること、(2)その合理化をふまえた、消費者への情報提供をどう適切になしていくかを検討すること、であろう。

本研究は、国や県から公表された種々のデータの検討を土台に、計測の合理化の手順を見出し、それを、自主検査をすすめてきた諸団体の協力のもとに社会実験的な試行につなげ、生産者と消費者の双方の意見を聴取して、上記の2課題の解決を目指す。

実践賞

渡部麻衣子「ダウン症に関する社会的認識の形成:「親の視点」を表現する活動としての「Shifting Perspective」(英国)の分析と実践の援助」

本研究は、プロのカメラマンであるダウン症の子を持つ親が開始した写真活動であるShifting Perspective (SP)を、「親の視点」に基づいてダウン症に関する社会的認識を形成する試みとして位置付け、質的調査を通じてその内容を分析すると共に、我が国に紹介することを目的とする。

SPは、2003年に開始し、2005年から英国ダウン症協会の賛同を得て、参加アーティストを増やしながら、英国内外で毎年作品展を開催してきた。2011年からは、プロジェクトにおいてこれまでに発表した作品を電子カタログ化し、ウェブサイト上等で公表している。この活動は、ダウン症に関する遺伝学的知識と出生前診断技術が発展してきた社会の現状と照らし合わせる時、重要な意味を持つと考えられる。      

SPは、ダウン症に関する科学的知識とそれに基づく技術が発展する一方で、親が各々の生活を通じて獲得してきた「認識」を、写真という媒体を通して社会に発信することで、ダウン症に関する包括的な「知」の構築に貢献する試みと言える。それではSPを通じて発信されている親の「認識」とはどのような「認識」であり、それはダウン症をめぐる科学技術と社会の現状においてどのような「意味」を持っているのか?これが本研究の問いである。同時に、ダウン症に限らずあらゆる障害や疾患に関する包括的な「知」の構築を支援する立場から、SPを、我が国に様々な形で紹介することを計画する。

尚、本研究は、現在遂行中の、科学知・科学技術の生産過程において「社会的マイノリティー」の参加を阻む構造と、参加を可能にする条件を解明することを目的とした研究の一部として行う。遂行中の研究にでは、国内外での質的調査に基づき、「ダウン症」に対する医科学の「認識」と、親が生活を通じて獲得してきたダウン症に対する「認識」の違いを確認することを目指している。本研究は、このうちの後者を確認する調査の一端を担うものである。

謝辞:選考委員の先生方には深くお礼申し上げます。

最終更新日 ( 2011/12/21 Wednesday 14:28:42 JST )
 
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