2013年度柿内賢信記念賞研究助成金の選考結果 |
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2013年度 科学技術社会論・柿内賢信記念賞選考結果について柿内記念賞選考委員会 【選考結果】優秀賞 50万円
「科学技術社会論への倫理的クリティカルシンキングの導入」 奨励賞 35万円
「重なり合う合意の事例研究」 奨励賞 30万円
「日本における技術者倫理導入の歴史的研究」 実践賞 35万円
「ポスト3・11の科学技術と社会」 【選考を振り返って】応募総数は13点で、内訳は優秀賞2点、奨励賞9点、実践賞2点でした。研究計画に厳密な積算が求められているわけではありませんし、成果についても本賞が取り立てて煩瑣な報告を求めているわけではありませんので、もっと多くの応募があってしかるべきなのにといった全般的な印象がありました。それというのも、本賞が「科学・技術と社会の問題」に関する研究者・実践的活動者を対象とすることが謳われていながら、理工系の実験研究の方法論だけで完結している応募テーマとか、社会との問題が明確でない人文社会学系の研究テーマが少なからずあったからです。しかし、多くはない応募者の中からでしたが、賞に相応しく優れた研究計画を選考できたことを大変喜ばしく思います。 あらかじめ採点の基準を決め全般的な議論をした上で、各賞について選考委員が独立個別に順位をつけて持ち寄りました。さらに奨励賞の次点については、各賞の次点とも引き比べた上で決定しました。これは、募集要項に「希望する部門を選択して応募してください。なお、選考委員会の判断によって、内容に応じて審査部門を変更することがあります」という文言があることを受け、優秀賞に応募していても、奨励賞としても十分受賞するに値するとなれば審査部門の変更がありうるからです。基本的には応募者の申請部門を尊重しておりますが、選考の公正さから外れない限り審査部門の変更を念頭に置いて選考に臨みました。 優秀賞と実践賞については選考委員の間で大きな意見の食い違いはありませんでしたが、奨励賞はやや意見が分かれる点もありました。しかし総意として1位、2位が明確に決まり大きな混乱はありませんでした。先にも述べましたように、各賞横断的に見ても、受賞は妥当なものとして委員の意見は一致いたしました。 【選評】【優秀賞】
哲学的倫理学の知見を系統的に科学技術社会論の文脈に適用することを目的とする本課題は、独創性があり優秀賞にふさわしいと判断しました。伊勢田氏は、科学技術をめぐる対立において、行為の善し悪しの判断には、帰結主義、義務論、徳倫理学の3つの立場の違いが作用している可能性があると述べ、これまで他領域に適用されてこなかった倫理学的議論を科学技術社会論に応用するという試みを提案されました。遺伝子組換え作物、地球温暖化の問題、原発事故の事後処理をめぐる問題など、これまで科学技術社会論の研究者によって取り組まれてきた事例を、さまざまな倫理学上の立場から見直すという取り組みは、科学技術社会論における理論研究の今後を考えるにあたって重要な貢献をなすものと思われます。 伊勢田氏は、倫理学的思考を科学技術社会論に応用するという試みを「倫理的クリティカルシンキング」と呼び、近年これを主題とした著書も出版されております。こうした研究成果を踏まえ、本課題を遂行するための計画と見通しが十分に整っているという判断し、優秀賞の受賞にいたりました。科学技術社会論研究の新たな地平を切り開いていただくことを期待しております。 【奨励賞】
この研究計画は、額賀氏の先行研究『生命倫理委員会の合意形成-日米比較研究』(勁草書房,2009)の成果の上に新たに企画された研究プロジェクトの一部をなすものです。額賀氏は、先行研究で合意形成の4類型(完全合意モデル、重なり合う合意モデル、妥協モデル、多数決原理モデル)に基づき、生命倫理の合意形成過程の比較研究を行っています。その成果からこの研究計画では、米国の生命倫理委員会における人文科学者、社会科学者、自然科学者らの有識者が生命科学の倫理問題について提言を取りまとめた過程を重なり合う合意モデルの事例とし、その視点から当事者へのインタビューを含む詳細な研究を計画されています。ジョン・ロールズの「重なり合う合意」では、世界観の異なる多様な専門家や市民が合意し、その原則は長期間安定的に共有されています。その合意形成過程の詳細な事例研究は、専門家と非専門家が構成する社会での科学技術と社会の界面の問題を扱う科学技術社会論においても重要であることは言うまでもありません。また、額賀氏の研究実績及び研究の継続性からも、その成果が大いに期待し得るものと評価しました。 【奨励賞】
夏目氏は、技術・工学に関連する「倫理」が日本でどのように問題化され、あるいは問題化されぬままであったのかに関心をもち研究を進めてきており、本研究ではとくに1990年代後半において我が国で「技術者倫理」の導入が進んだ要因を探ろうとしています。科学史研究者である氏は、「技術者倫理」導入の経緯を歴史的に調査・分析する手法でテーマに迫ろうとしています。こうした歴史的実証的な技術・工学倫理研究の必要を、氏が痛切に意識することになったのは、ほかならぬ福島第一原発事故でした。これ程の事態に直面しても、技術者倫理の真の問題は語られぬままであることに対して、科学技術史を専門とし技術倫理研究も担う中堅である夏目氏は、この問題に取り組むことこそ自分に課せられた義務と認識するに至ったとしています。人文社会系の研究と工学系の研究の2つの研究系統を科学技術社会論の立場から包括的な研究へとまとめあげようとする氏の意欲は並々ならぬものがあり、調査研究の費用を助成することによって、研究の完成を期待いたします。 【実践賞】
東日本大震災以降の科学技術と社会のあり方についての幅広い着実な論考をまとめた『ポスト3・11の科学技術社会論』は、もともと単発的な企画として終わらないことが望まれる書であり、関係者もその見通しのもと着実な活動を積み重ねてきておられます。八木氏の研究計画はその活動を踏まえ、同書の継続企画を適切かつ着実な形で設計したものです。 同企画の特色は、関係者が個別のテーマへの分析を深める「研究」的な側面に留まらず、公開の討論会を開催し多様な参加者と対話していくという「活動」の側面を重視していることにあります。いわばアカデミックな研究助成金が対象とするテーマと社会的活動との中間的な企画であり、既存の助成の枠にはまりづらい側面があると思われます。しかし直接公共空間に対話の場を開き、科学技術と社会の関係を正面から問い直そうとする新しい形の試みであり、本基金実践賞の趣旨には充分合致しています。ゆえに実践賞部門の採択といたしました。 |
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最終更新日 ( 2013/11/26 Tuesday 14:54:17 JST ) |
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