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科学技術社会論学会 (Japanese Society for Science and Technology Studies)  
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2017/08/18 Friday 21:29:12 JST
 
 
2013年度受賞者の研究計画要旨 PDF プリント メール

 2013年度受賞者

研究計画要旨

優秀賞

伊勢田哲治「科学技術社会論への倫理的クリティカルシンキングの導入」

本研究は、哲学的倫理学の知見が科学技術社会論に、具体的には科学技術をめぐる意思決定のための論争に対して、どのように貢献できるかを考えることを目的とする。本研究では、倫理学の知見のうち、そうした形で応用できる部分を倫理的クリティカルシンキングと呼ぶことにするが、その言葉を用いるなら、科学技術社会論における倫理的クリティカルシンキングの可能性を模索するのが本研究である。

哲学的倫理学はさまざまな規範理論を開発してきた。その主なものは、帰結主義(結果のみによって行為の善し悪しを判断する立場)、義務論(行為が義務にかなっているかどうかに注目する立場)、徳倫理学(行為ではなく行為者の持つ徳を判断の対象にする立場)の三つに分類される。これらの倫理学理論は決して哲学者が恣意的に作り上げたものではなく、われわれの持つ倫理観のある部分を明確化したものだと考えることができる。そうであるならば、科学技術をめぐる対立においても、こうした倫理観の違いは作用している可能性がある。しかし、倫理学で論じられてきた他の話題については、いまだ倫理学とその周辺領域に適用が限られている。本研究では、哲学的倫理学の含意を系統的に科学技術社会論の文脈に適用し、双方の領域の拡充をはかる。

科学技術社会論への応用が見込める倫理学的議論として、例えば副次効果や行為者相対性をめぐる議論がある。ある問題についての立場の違いがこうした問題についての異なる立場に由来するものであることが一旦理解されたなら、その理解をベースとしてより実り多い対話が可能となるはずである。これこそが科学技術の関わる問題についてクリティカルシンキングを行うことの目的でもあり、本研究を「倫理的クリティカルシンキング」と呼ぶ理由ともなっている。

具体的な研究計画としては、文献研究と、講演者を招いた研究会を開催することで研究をすすめたい。

奨励賞

額賀淑郎「重なり合う合意の事例研究――生命倫理委員会の歴史」

本研究は、政治哲学者ジョン・ロールズの「重なり合う合意」という分析モデルを検証するため、米国の生命倫理委員会の事例研究を行うことを目指す。

ロールズは後期の研究において「重なり合う合意」に基づいた正義構想を論じた。「重なり合う合意」とは、立憲民主社会において自由で平等な市民の多様な世界観が、各々の視点に基づく倫理原則として一致し、その結果、世代を超えた長期の正義構想が可能になることを意味する。重なり合う合意は、倫理学の仮説モデルであるが、科学技術社会論において、その具体例を検証した研究は少ない。重なり合う合意は、ホッブズの秩序問題に対する一つの解決法を示すため、その事例分析は極めて重要である。特に、重なり合う合意の分析は、科学技術社会論が論じる「研究者と民主主義」の研究に貢献できるだろう。

本研究は、重なり合う合意の事例研究として、米国の生命倫理委員会における研究倫理の課題を分析対象とする。米国の生命倫理委員会は、連邦諮問委員会法に基づく諮問委員会をさし、人文科学者、社会科学者、自然科学者らが生命科学の倫理問題を論じ提言をまとめている。その代表例として、1974年の国家委員会や1980年の大統領委員会を挙げることができる。これまで、生命倫理委員会の分析を行った先行研究はあるが、ロールズの重なり合う合意に関連して、生命倫理委員会では、どのようにして研究倫理の三原則(人格尊重、恩恵、正義)が合意され、その後、政府指針になったのかという歴史プロセスを分析した研究は少ない。そのため、本研究は、倫理学や社会学の理論研究に基づいて、米国の生命倫理委員会の倫理原則や1991年のコモン・ルールについて詳細な事例研究を行い、ロールズの重なり合う合意を検証する。今回の研究助成では、史料の文献調査や当時のスタッフらへのインタビュー調査を実施し、主に事例分析を行うことを目指している。

夏目賢一「日本における技術者倫理導入の歴史研究」

本研究の目的は、1990年代後半に日本で「技術者倫理」の導入が進んだ本質的な要因を、その経緯の歴史的な調査・分析によって明らかにしていくことである。

この導入の要因として、従来は1995年のWTO設立など経済のグローバル化にともなうエンジニアリング・サービスの国際的な質保証(技術士制度の改革やJABEEの設立)による技術者倫理の義務化、あるいは1995年以降の事件・事故(例えばもんじゅやJCOの事故)原因としての職業倫理の問題化などがあげられてきた。しかし、これらの説明は体系的な調査に基づいておらず、当時の顕著な出来事を関連づけた印象論に近いものであり、本質的な要因を十分に評価できていない可能性が高かった。

そこで、本研究では次のようなテーマを設定して歴史的な分析を進め、論文として発表することを計画した。

  1. 1990年代の日本技術士会における技術者倫理の展開
  2. 日本の学術団体における倫理規程の導入
  3. 1980年代後半からの工学教育改革とJABEEの設立
  4. 1980-90年代前半までの技術・工学に関する「倫理」

すなわち、JABEE設立へと続く大学(工学)教育改革やAPECエンジニア制度の導入・展開と技術者倫理の導入との影響関係を明らかにするとともに、従来混同されがちであった学術団体と職能団体の倫理規程を歴史的に整理して90年代における学術界の質的な転換と倫理との関係を明らかにし、さらに、90年代後半以降の技術者倫理と90年代前半までの科学技術倫理との質的な違いを明らかにしていきたい。これらのテーマに関する基本的な調査(文献調査やインタビュー調査)はこれまでにもかなり進めてきたが、今後はそれにさらなる詳細な調査と分析を加えながら、論文として発表していくことを目標としている。

なお、財界からの影響や、1990年代の社会一般の認識の傾向や変化などについても分析を進める必要がある。これらは基本的な調査もまだ十分に進められていないが、上記と並行して可能な限り調査と分析を進めていきたい。

実践賞

八木絵香「ポスト3・11の科学技術と社会 ─新たなる展開に向けて」

2013年2月、東日本大震災以降の科学技術と社会とのありかたについて、改めて根本に立ち戻って考えていくことが必要であるとの問題意識から「ポスト3・11の科学と政治(中村征樹編・ナカニシヤ出版)」を上梓した。

この著書では、東日本大震災をめぐるさまざまな時局的な話題を取り上げた。しかし一方で著者らは、この度の震災で浮き彫りになった問題の多くは、一つ一つを取ってみるならば、必ずしもこの震災に限定されるべき問題だとも、また今回新しく出てきた問題であるとも考えていない。むしろそれらは、震災以前よりあった問題群である。そして、著者らが執筆を通じて至った共通認識は、今回の震災を通じて改めて見えてきた課題や問題の構図を描き出すことにより、広範囲に及ぶ問題に対して腰を据えて継続的に取り組んでいくこと、そのものの重要性である。また本書は、東日本大震災をめぐる諸問題への科学技術社会論分野からのアプローチという側面をもつ。その意味で、東日本大震災後に申請者らに与えられた「科学技術社会論という学問分野は、東日本大震災をめぐる諸問題へいかに寄与することができるのか」という問いに対する応答も、この本の中には含まれている。

以上のような問題意識から、申請者らは、「ポスト3・11の科学と政治」の続編を刊行するために、継続的な研究会を開催する予定である。それらの討議を通じて、東日本大震災をめぐるさまざまな問題に対して、科学をめぐる政治(ポリティクス)という視点からアプローチすることにより、問題の構図・構造を改めて浮き彫りにし、科学技術社会論における新たなフレームワークと役割について模索することを試みる。

最終更新日 ( 2013/12/12 Thursday 10:48:25 JST )
 
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