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科学技術社会論学会 (Japanese Society for Science and Technology Studies)  
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2017/01/24 Tuesday 13:59:40 JST
 
 
2015年度受賞者の研究計画要旨 PDF プリント メール

2015年度受賞者

研究計画要旨

優秀賞 

吉岡斉 「脱成長時代における日本の科学技術の社会史についての総合的研究」

私は1970年代半ばより約40年にわたり、社会的活動としての科学技術について、歴史的・批判的研究を重ねてきました。とくに1990年代からの約四半世紀は、戦後日本科学技術の社会史的研究と、原子力開発利用の歴史的・政策的研究を「車の両輪」として、科学技術の歴史的・批判的研究を進めてきました。

今回受賞の対象となった研究課題は、「脱成長時代における日本の科学技術の社会史についての総合的研究」であり、「車の両輪」の一方に相当します。この領域において私は1980年代半ばより約30年にわたり、多数の研究者・実務家を結集したプロジェクト研究にコアメンバーとして関わってきました。その主要な研究成果は、中山茂、後藤邦夫、吉岡斉編著『通史 日本の科学技術』(全5巻+別巻、学陽書房、1995~99年)、および吉岡斉代表編集『新通史 日本の科学技術』(全4巻+別巻、原書房、20011年~12年)です。さらに『新通史』の後継プロジェクトとして、2010年代日本の科学技術と社会に関する作品(仮称『新々通史』)を、2020年代初頭を目標に出版する構想を立てています。

この新しい研究プロジェクトでは2010年代を「脱成長の時代」として把握することが妥当であると見込んでいます。21世紀初頭をピークとして、日本の人口、国内総生産(GDP)、エネルギー消費などの主要経済指標が、拡大から縮小へと転じ、今後もそうした収縮傾向が長期にわたって続くことが予想されるからです。これに関して日本は世界の先進諸国の中でも最先端を走っており、この時代をいかに上手に適応していくかの先進例として、世界的に価値のある経験を積んでいくことができるでしょう。

なお私自身はそうしたプロジェクト研究の成果を生かしつつ単独で、戦後70年をカバーする日本科学技術の社会史の標準的テキストを完成させる決意です。

奨励賞 

竹家一美 「男性不妊の当事者をめぐる『現実』-泌尿器科医とその患者の語りを通してー」

本研究の目的は、男性不妊症と診断された男性の「現実」を、泌尿器科医とその患者へのインタビューを通して、可視化することである。

日本では従来、不妊と男性は関係のないものとして隠蔽されてきた。不妊原因の約半分が男性側にあることは、医学的にはわかっていても、社会的には「不妊は女性の問題」という認識があるため、不妊治療は「産めない女性の治療」とみなされてきたのである。

だが近年、男性不妊を巡る状況が変わり始めた。2014年には、男性不妊の専門医らがNPO法人を設立し、男性不妊治療の必要性を啓蒙する活動を始め、行政レベルでも、男性不妊治療の助成制度を新設する自治体が出てきた。その背景には治療法の進展、特に無精子症の治療法である「顕微鏡下精巣精子採取術(micro TESE)」の臨床応用がある。2000年頃米国から導入され14年には国内57施設で実施可能となった同手術は、保険適用外で高額な費用がかかるものの、その効果が認められたため、行政も支援に踏み切ったのであろう。

他方、学術的にも、人文社会科学領域では、不妊と男性を巡る問題は看過されてきた。ジェンダーと科学技術の研究でも、女性のみを対象とすることの限界は指摘されてきたが、「男らしさ」の形成と男性不妊治療技術の相互構築的な関係は等閑視されてきた。男性不妊が原因でも施術対象は女性になるという、技術開発におけるジェンダー・バイアスを指摘する論考は多いが、男性と不妊との関係に切り込んだ研究は、管見の限り日本にはほぼ存在しない。

不妊を女性の問題とみなす社会では、男性にとって男性不妊は想定外の事態となりうるが、ならばその時、男性のアイデンティティには何が起きるのか。そしてその後、泌尿器科を受診していく過程で、彼らのアイデンティティや身体観、生殖観はどのように変化するのか。本研究では、特にmicro TESEのような先端技術の選択・経験が、患者の「現実」に及ぼす影響を、社会との相互行為の観点から検討していく。

横山広美 「科学の新たなパトロネッジ 科学のクラウドファンディングについての研究」

本研究では、現代における科学研究のパトロネッジを俯瞰しながら、近年、新たに台頭してきた科学研究のクラウドファンディングの課題と可能性を明らかにすることを目標にする。

科学研究のパトロネッジについては多くの議論が重ねられてきた。19世紀までは貴族や有力者が資金を提供し、その後は多くの国で税金を元に政府が主たる出資者になった。企業との産学連携や特許、ベンチャーキャピタルなどの活動は、大学のあるべき姿と共に議論され、科学研究と科学者、出資者の間の緊張関係は大きく変化を続けている。そこに新たに、ウェブ上で科学研究への出資を募るクラウドファンディングが現れた。日本でも近年、科学研究への出資を募るクラウドファンディングの活動が活発化している。

最初に述べておくべき点は、科学研究に対するクラウドファンディングは、安定的に科学研究を行う予算の主要部分を占めるものではないことだ。しかしながら年々厳しさを増す研究環境を考えれば、クラウドファンディングは今後の科学研究のパトロネッジとして一定の可能性を秘めているかもしれない。

クラウドファンディングは政府の配分する競争的資金のように専門家による審査システム(ピアレビュー)を持たない。多くの場合、科学者が出演する映像を作成し、SNSを通じて拡散して多様な公衆にそれぞれの科学研究に対し支援を求める。こうした独自の評価、支援体制は科学研究と社会の両方にプラス面とマイナス面をもたらす可能性がある。

そこで本研究では、以下3点を明らかにすることを目標にする。

  1. 研究者たちはなぜ参加するのか、公衆はなぜ支援するのか/しないのか
  2. 多様な公衆が科学研究を直接に評価するプラス面とマイナス面は何か
  3. 科学研究のクラウドファンディングの課題と可能性は何か

実践賞

田中隆文「ローカルノレッジを防災・減災に活かすための方策の提案と試行」

本研究は,地域や住民が有するローカルノレッジの発信を促し,防災・減災に活かしていくことを目的としてその方策の提案と試行を行う実践的な研究である。

災害現場が抱える個別の条件には,ローカルノレッジとして伝えられてきたものもあるが,過疎化の進行や市町村合併,これらと連関する小学校の統廃合,生活様式の変化などにより,その認識も薄れ伝承も危うくなっている。 住民が参加しているというだけのボトムアップに終わらせないためには,a)科学知によらずにローカルノレッジをチェックできる場の創出とb)ローカルノレッジが実際に防災・減災に活用されるという目的の明確化,の2点が重要となる。

本研究では,1)地域コミュニティーと共に災害に直結しないものも含めた広い分野のローカルノレッジの認識・収集を実施する。その際,日常生活と様々にコンテキストを共有するもの,日常とは切り離しえないものとして災害を捉えることによって,ローカルノレッジの再認識・発信を促す。過疎が進行する集落で将来の廃村が想定される場合でも,ローカルノレッジの伝承は生活空間であった証を残す意義があり,さらに将来および下流地域の防災・減災にも通じるという有効性を訴えたい。

次に,2)収集したローカルノレッジは,地域の郷土館や公民館などで展示し住民自身によるチェックの機会を確保し,さらにWSを開催して議論を深める。さらに,3)ボトムアップ的な地区防災計画を災害対策基本法に基づき公認する制度(地区防災計画制度)を活用しローカルノレッジの公認化を進めその伝承を確実化するとともに,その過程を通じて成果の地域防災への定着を図る。以上の,ローカルノレッジを防災・減災に活かすための方策の提案と試行の過程と成果は,ケーススタディとして報告書にまとめ,科学技術社会論の研究者に供したい。

石川幹人 「疑似科学とされるものの科学性評定サイトを媒介にした科学コミュニケーションの増進」

本研究は、これまで科研費の支援を受けて構築してきた「疑似科学とされるものの科学性評定サイトhttp://sciencecomlabo.jp/」に、さらに機能を増設することで、当該サイトを媒介にした科学コミュニケーションの増進が可能かどうかを究明しようとするものである。

当該サイトは、コラーゲンサプリ、磁石治療、ゲルマニウム、占星術など、科学の体裁がありながらも科学であることが疑わしい対象について、科学・発展途上の科学・未科学・疑似科学の4段階で評定するものである。2015年5月に本格稼働して以来、半年で15万ページビューの注目サイトになっている。

この評定にあたっては、理論の観点、データの観点、理論とデータの関わりの観点、社会的な観点から抽出された「科学が満たすべき10の条件」にもとづいてなされている。また、その評定は、閲覧者からの意見や情報の投稿によって更新されており、ひとつの科学コミュニケーションの場として運用されている。

しかしこのサイトでは、疑似科学を例題にして科学的方法の理解を広く普及させることを狙っているものの、現状では、一般市民には専門的すぎるきらいがある。今後、一般市民の閲覧・参加を促進するために、評定内容記述のハードルを下げる必要性があると指摘できる。

そこで本研究では、疑似科学に関する用語を解説するハイパーテキスト事典を当該サイトに増設することを計画した。この事典を参照することで、評定記述が飛躍的に理解しやすくなると予想できる。サイトを媒介にした科学コミュニケーション研究としても、心理面や社会面の知見が得られると期待できる。

 
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