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科学技術社会論学会 (Japanese Society for Science and Technology Studies)  
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2005年度柿内賢信記念賞研究助成金の選考結果 PDF プリント メール

2005年11月13日

2005年度柿内賢信記念賞研究助成金の選考結果について(講評)

柿内賢信記念賞研究助成金選考委員会委員長
小林傳司(大阪大学)
審査委員(五十音順)
鬼頭秀一(東京大学)
小林信一(筑波大学)
塚原修一(国立教育政策研究所)
辻篤子(朝日新聞社)

 このたび、財団法人倶進会の厚志をいただき、科学技術社会論学会では「柿内賢信記念賞研究助成金」を設け、科学技術社会論研究の発展に資することを目的に、学会を越えて広く本賞の公募を行いました。

 財団法人倶進会は「薫育事業を通じて国家に有用な人材を養成する」ことを目的として、日本の生化学を育てた柿内三郎東京大学教授が退官にあたり、私財を寄付して1943年8月14日に設立されたものであります(http://www.gushinkai.com/)。今回の賞は、柿内三郎氏のご長男で倶進会の理事長を務められ、物理学のみならず科学と社会の関係について深い関心をお持ちの柿内賢信氏を記念して「柿内賢信記念賞」と命名されたものです。財団法人倶進会におかれましては、本学会に研究助成金のご提供をいただきましたことを、ここにあらためて感謝したいと思います。

 本学会では、「柿内賢信記念賞」の発足に当たり、慎重に検討した結果、「記念賞研究助成金」、「奨励賞研究助成金」、「実践賞研究助成金」の三つの部門を設け公募することとしました。応募資格についても、本学会会員以外の応募も認めることとしました。
その結果、今年度は8件(「記念賞」1件、「奨励賞」4件、「実践賞」3件)の応募があり、選考委員会で慎重に審議し、下記の2名の方の授賞を決定いたしました。<研究内容要旨は別紙参照

記念賞: 該当者なし

奨励賞(研究助成金50万円): 
竹田恵子「生殖補助医療受診に対する「抵抗感」の分析-各種ART専門職との意識の相違に注目して-」

実践賞(研究助成金50万円):
榎木英介「日本の科学技術政策形成における非営利組織の役割」

選考を振り返って

 今回は最初の授賞であり、応募数も8件と少なく、選考においては本賞の将来の発展という視点から、慎重に検討を重ねました。

 選考に当たっては、本学会の設立の趣旨に鑑み、「科学技術と社会の新たな関係の構築」という目的に向けて新鮮な角度から着実な研究が提案されているか否か、を基本的な視点といたしました。しかし、「記念賞」に関しては応募件数が1件であり比較考量の上での「審査」が成り立ちにくいという判断のもと、該当者なしといたしました。

 「奨励賞」に関しては、この基本的視点に加え「今後の研究の発展が期待されるか否か」という視点の下、審査を行いました。応募の中には、極めて構想は大きいが現実の研究としては実現可能性が危ぶまれるもの、重要な視点ではあるものの現在から未来の課題とのつながりにおいて少し疑問の残るもの、などがあり、選考は難航しました。しかし、いずれも現代社会における「科学技術と社会の関係」を再考しようとする意欲にあふれており、本部門の趣旨は理解していただけたと安心いたしました。今回は経験的研究が多かったといえますが、理論的研究も歓迎いたします。どうか奮って応募していただきたいと思います。

 「実践賞」に関しては、先の基本的視点に加え、本学会が「批判的かつ建設的な学術的研究」を重視することに鑑み、「実践的活動を踏まえた」研究提案か否かという視点で選考いたしました。科学技術社会論は従来の学術研究の手法や流儀に尽きるものではなく、広く社会的に提言や発信を行うことも視野に入れており、本賞では、「実践的活動を踏まえた」研究を支援したいと考えております。今回は、この趣旨に叶う応募があり、選考委員会では多角的な検討を加えました。すでにかなりの実践活動を行っている方々からも応募があり、論議は尽きませんでしたが、最終的に今後の活動の支援という観点から受賞者を決定いたしました。

 この賞は、来年度以降も継続いたします。今回の受賞者の方々には、本賞の趣旨をご理解いただき、充実した成果を上げてくださるようお願い申し上げます。そのような活動の積み重ねこそが、本賞の意義を広く世に知らせ、また科学技術社会論研究の発展につながると考えております。来年度以降、より多数の方々の応募を期待しております

「奨励賞」選評

竹田恵子「生殖補助医療受診に対する「抵抗感」の分析-各種ART専門職との意識の相違に注目して-」

 現在の科学技術社会論の領域で、科学技術や科学政策に関する理論的構造的分析や、討議などのコミュニケーションに関わる領域での議論が中心的に行われている中で、人々が科学技術を受け入れ、評価し、また、そのことを正当化していく際に、科学技術そのものやその社会的あり方、制度状況に対して「身体」という側面から捉えていく研究の領域は、まだまだ未成熟と言えます。しかし、先端医療のように、人間の身体に対して浸襲的に入り込み、それを受け入れる人間も、否応なくそれにコミットせざるをえない状況の中で、理念的な評価や正当化のレベルでは科学技術に依拠した論理を受け入れていても、技術そのものや技術の社会的状況、制度に対する「身体」的な反応が、一見矛盾する形で先鋭化して出現することはよくあることです。その「矛盾」も含めた心理学的、社会学的な構造を明らかにしていくことは、科学技術社会論の今後の展開を考えると重要な領域だと言えます。

 竹田氏は、生殖補助医療(ART)というその典型的な技術を取り上げ、「子供をつくる」という社会的にも広範に受け入れられつつある心性と寄り添った科学技術でありながら、それに対する「抵抗感」が存在するという「矛盾」に着目し、そのことにかかわって、受診者本人だけでなく、その技術にかかわるさまざまなタイプの専門職従事者、受診者の将来的な可能性を持つ人たちまで含めて、心理学的、社会学的な分析を行い、科学技術と社会の間の重要な界面を明らかにしようとしています。この研究は、科学技術の身体性にかかわる社会的側面という、まだ十分に成熟しているとはいえませんが、今後ますます求められてくる領域を開拓するという点でも重要であり、奨励賞としてふさわしいと考えました。

 科学技術社会論の領域では、科学技術政策や科学技術をめぐるコミュニケーションにかかわる領域でも、まだなお、科学論を中心とした理論的研究に偏った状況にあり、社会学、心理学、人類学、経済学、政治学も含めたさまざまな人文社会科学の視点から科学技術を捉えて、純粋な理論的な研究に留まらず、科学技術と社会の現場に向き合った経験的な研究を蓄積して、その中から新たな理論を構築していくという方向性がまだまだ弱いのが現状です。今後は、隣接の多くの人文社会科学の研究を呼び込み、交流しつつ、その方向の研究を進めていくことの重要性もここで指摘しておきたいと思います。

「実践賞」選評

榎木英介「日本の科学技術政策形成における非営利組織の役割」

 多元的社会においては、一部の専門家や行政のみが問題提起をすればよいというものではありません。社会の中に存在する多様な価値観を反映するように、問題意識を持った個人やグループが問題提起をし、より多くの人々に問題意識が共有されていくことが大切です。実践賞研究助成金は、このような活動に意義を認め、支援していくものです。
 このような役割を担う個人やグループ、その活動をアドボケイト(advocate)、アドボカシー(advocacy)と表現します。NPOは(たとえ明確に定式化できていないとしても)共通の問題意識を持つ人々が集まることで、社会的問題を顕在化するための「装置」であり、アドボカシーを担う存在の一つです。

 今回の授賞者は、若手研究者の立場から科学技術活動や科学技術政策に関する問題提起と実践的活動を継続し、NPOサイエンス・コミュニケーション(サイコムジャパン)を設立後もその中心となって活動を推進してきました。その意味で、実践賞研究助成金の対象者として適格であることはいうまでもありません。また、その提案内容も、科学技術政策に関与しうるNPOのあり方を模索するものであり、わが国の科学技術政策や「科学技術と社会」が成熟していく上で、避けられない課題であるとともに、本賞の意図にも沿うものです。これらの理由から、本提案は実践賞研究助成金の受賞課題としてふさわしいものであると、審査委員会は判断いたしました。

 授賞に際して2点ほど、研究の方向性についての助言と激励を述べます。

 第1は、助成期間が1年間に限定されているので、助成期間内に実施することを欲張らないでいただきたいということです。受賞者も述べているとおり、わが国では科学技術政策分野のNPOは未成熟です。政策提言に至る道筋や手法も未経験なことばかりです。単に情報提供をすれば政策提言ができるという短絡的なものではないでしょう。たとえNPOであっても(NPOであるからこそ)、その活動には社会的な責任と質の保証が求められます。したがって、成果を急いで行き当たりばったりに進めるよりは、ロードマップを考えた上で「着実」に検討と試行を重ねていくべきでしょう。海外の事例なとも、やみくもに調査するのではなく、ねらいを明確にして調査することが必要です。結論を急ぐよりは、着実に次につながる成果を上げることを期待します。

 第2に、実践賞研究助成金は研究提案をした個人またはグループ(共同研究者)に授与されるものであり、NPOに運営資金を授与するような性質のものではありませんが、本賞の趣旨に照らして、両者が有機的に協力して活動を展開することを期待します。調査研究を実施する上では、フィールドを持つことは利点です。同時にNPOにとっても新しい挑戦をする機会を得ることは意味があることでしょう。両者にとってメリットがある形で調査研究が進むこと、また、今回の調査研究が一つの試行となり、将来的にはそれがNPOの活動の一部として展開していくことを期待します。

 最後に次回以降の応募者のために付言いたします。今回の受賞は、問題意識が広く、より一般性のあるテーマを扱っていますが、実践賞研究助成金ではより個別的な問題意識に基づく提案も歓迎しています。同じく、NPOに限らず、教員、博物館スタッフ、メディア関係者、コミュニティのグループ等の多様な皆様からの提案を歓迎します。また、問題意識はあってもどのように調査研究を進めてよいかわからないという場合には、共同研究者に本学会員等の専門的知識を有する人を加えて計画を練り、応募してもらうことも可能です。必要があれば学会事務局に相談し、助言者を紹介してもらうのもよい方法だと思います。次回の応募を期待しております。

以上

 
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