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科学技術社会論学会 (Japanese Society for Science and Technology Studies)  
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2006年度柿内賢信記念賞研究助成金の選考結果 PDF プリント メール

2006年11月12日

2006年度柿内賢信記念賞研究助成金の選考結果について(講評)

柿内賢信記念賞研究助成金選考委員会委員長
小林傳司

昨年に引き続き、科学技術社会論学会では、財団法人倶進会の厚志をいただき設けた「柿内賢信記念賞研究助成金」の公募を行いました。

本学会内に設けた研究助成金選考委員会では、慎重に審議した結果、下記のとおり、奨励賞2件、実践賞1件を選定し、授賞を決定いたしました。

本年の応募件数は、記念賞0件、奨励賞3件、実践賞1件の計4件でした。学会としての広報活動が不十分であったためか、応募件数が少なかったことが残念です。ご支援いただいている、財団法人倶進会には、深くお詫びいたします。来年の募集に関しては、より広く周知広報をするための活動を強化し、科学技術社会論研究の発展のための研究助成を実効あらしめるよう努力いたします。

記念賞: 該当者なし

奨励賞: 
猪瀬 浩平 「「人格」の構築学:自閉症をめぐる科学技術、政策、実践の多元的関係の解明」 
山内 保典 「高校生向け授業の中で科学者は何を学ぶのか?―経験者へのインタビュー調査を通して―」

実践賞: 
比屋根 均 「自立した技術者像の実践的探求―テクノロジーカフェ、技術(者)倫理教育等の実践を通じての、新しい技術者像の創造研究―」

<研究内容要旨は別紙参照

選考を振り返って

今回、応募数が4件と少なく、選考においてかなり踏み込んだ議論を行いました。とりわけ本賞の将来の発展という視点から、反省する点も多く、来年の募集に向けての方策も検討いたしました。

選考に当たっては、本学会の設立の趣旨に鑑み、「科学技術と社会の新たな関係の構築」という目的に向けて新鮮な角度から着実な研究が提案されているか否か、を基本的な視点といたしました。しかし、「記念賞」に関しては応募がなく、該当者なしといたしました。

「奨励賞」に関しては、この基本的視点に加え「今後の研究の発展が期待されるか否か」という視点の下、審査を行いました。今回は二名の研究提案を採択しました。それぞれ、科学技術社会論の重要な特徴のひとつである実践性と理論的分析の結合を目指したもので、甲乙つけがたく、慎重に審議した結果、二件の採択としました。また、この二件はそれぞれ認知科学と文化人類学からの科学技術へのアプローチであり、今後の本学会の研究領域の広がりを予感させるものであったと思います。そして、いずれも現代社会における「科学技術と社会の関係」を再考しようとする意欲にあふれており、本部門の趣旨にかなうものと考えております。来年は、より多数の応募を期待しています。

「実践賞」に関しては、先の基本的視点に加え、本学会が「批判的かつ建設的な学術的研究」を重視することに鑑み、「実践的活動を踏まえた」研究提案か否かという視点で選考いたしました。科学技術社会論は従来の学術研究の手法や流儀に尽きるものではなく、広く社会的に提言や発信を行うことも視野に入れており、本賞では、「実践的活動を踏まえた」研究を支援したいと考えております。今回も、この趣旨に叶う応募があり、選考委員会では多角的な検討を加えました。採択された研究提案は、すでにかなりの実践活動を行っている方からのものであり、今後の活動への期待をこめて支援したいという結論に達しました。同時に、選評にもありますように、委員会としては若干のアドヴァイスを付け加えることにしました。

この賞は、今後も継続いたします。今回の受賞者の方々には、本賞の趣旨をご理解いただき、充実した成果を上げてくださるようお願い申し上げます。そのような活動の積み重ねこそが、本賞の意義を広く世に知らせ、また科学技術社会論研究の発展につながると考えております。来年度以降、より多数の方々の応募を期待しております。

「奨励賞」選評
猪瀬 浩平 「「人格」の構築学:自閉症をめぐる科学技術、政策、実践の多元的関係の解明」 

猪瀬氏の研究は、基本的には自閉症をテーマとした、さまざまなアクターを巡る科学技術の人類学であり、従来は日本では文化人類学の領域でのSTSへの参入がほとんどなかったことを考えたとき、文化人類学の中でこのような研究領域に果敢に挑もうとする若い研究者が出てきたことをまずは慶びたいと思います。

猪瀬氏の研究は、現在の時点の、自閉症に関するさまざまな知と、精神医学者、自閉症患者、家族、教育関係者、福祉関係者、行政等々のアクターの織りなす、多元的な分析を含んだ、共時的なレベルでの自閉症を巡る科学技術の人類学に留まらないところが特色です。それに加えて、自閉症概念の発祥の地アメリカでのフィールドワークを通じて、自閉症の科学の社会史を、人類学的枠組みとフィールドワークを通じた、科学技術の人類学的な視点から捉え、通時的な軸を加えた立体的構成の中で科学技術の人類学を実践しようとしているからです。このような研究は、科学技術の人類学に対しても新しい試みであり、また、科学の社会史にとっても人類学的フィールドワークと理論的枠組みなどの新しい息吹を吹き込む可能性を持っているといえるでしょう。

そして、猪瀬氏は、こうした研究を、国際的なSTSの学界における国際的な共同研究も含めて行おうとしています。そのような視点から、新しいSTS研究の可能性を感じさせてくれる研究として、奨励賞に値すると評価しました。

「奨励賞」選評
山内 保典 「高校生向け授業の中で科学者は何を学ぶのか?―経験者へのインタビュー調査を通して―」

科学技術をめぐる専門家―非専門家間のコミュニケーション問題に関する研究は,欠如モデルを克服し,コミュニケーションの名に相応しい相互作用が成立する環境や条件などを明らかにする方向へと深化してきました.その過程で,両者の知識の優劣だけに還元することのできない知識の質的な差異やコミュニケーションに基づく意思決定の性質の違いなどの認知的次元に関わる問題が取り上げられるとともに,そのような差異を前提として社会的に望ましいコミュニケーションを可能とする場を設計する方法やそれを支援する制度の姿などの社会的次元の問題についても多様な研究が進められてきました.そして,主として科学技術社会論の研究者たちは,自らの視点を非専門家を支援するサポーターないしは両者の仲介者とみなしてこのテーマに接してきたと考えられます.

山内氏は,これまでの分野における蓄積を踏まえながらも,認知科学的な手法を導入して「科学技術者の視点」で専門家-非専門家コミュニケーションを分析しようとしています.これまでにも,コミュニケーションの場において専門家が何事かに気づき,場合によっては態度変容が生じた事例について報告はなされていますが,山内氏の研究はコミュニケーションを通じた科学者の「気づき」や「学び」のプロセスに焦点を絞り複数のメディアの解析を介してそのあり方に科学技術者側から接近しようと試みている点でユニークであり,当該研究が新たな研究領域を開拓することを期待し,奨励賞として相応しいと考えました.

なお,今回,山内氏が分析の対象とする高大連携事業は研究者が高校生を対象に講義する場を提供するものであり,通常我々が想定する専門家-非専門家コミュニケーションとは若干性質を異にしています.しかし,当該研究は「気づき」や「学び」が持つ社会的な意味よりはそれが生じるプロセスに注目しているため,このことが決定的な瑕疵となるものではなく,むしろ統制された環境が得られるという観点からポジティブに評価すべきと判断いたしました.その意味でも,本研究計画が終了した後により一般的な専門家-非専門家コミュニケーションへと進まれることも含めて山内氏の研究に期待しています.

「実践賞」選評
比屋根 均 「自立した技術者像の実践的探求―テクノロジーカフェ、技術(者)倫理教育等の実践を通じての、新しい技術者像の創造研究―」

技術をめぐって起きるさまざまな問題は、科学技術社会論の中心課題の一つであることは論を待ちませんが、残念ながらこれまでは技術に携わる側からの参画は十分とはいえませんでした。比屋根氏らは、技術士としての仕事のかたわら、技術倫理の研究に取り組んできました。その「自立した技術者像」を求める活動の中で、科学技術コミュニケーションの重要性に着目し、市民と直接技術について語り合う場として「テクノロジーカフェ」の試みを始めています。サイエンスカフェはかなり広がりを見せてきましたが、技術の現場を知る技術者が自ら一歩を踏み出す形でのテクノロジーカフェはまだほとんどないといっていいでしょう。技術者と市民との対話によって互いの理解を深めるために、こうした活動はもっと広がっていいと思います。そうした機運を広げる意味でも、実践賞にふさわしい研究だといえます。

今後、カフェの活動を本格化していくうえで、ぜひご検討いただきたいことがあります。カフェの双方向性をという性格を考えると、テーマ設定などについて市民の立場から助言できるような、たとえばサイエンスコミュニケーションの専門家などの参画があれば、より効果的な活動になるのではないかと思われます。そうした知恵も集めて、技術者による新しいカフェの可能性を拓いていただきたく思います。

最終更新日 ( 2006/11/14 Tuesday 04:35:16 JST )
 
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