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科学技術社会論学会 (Japanese Society for Science and Technology Studies)  
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2019/09/23 Monday 01:44:05 JST
 
 
受賞者の研究内容要旨 PDF プリント メール

受賞者の研究内容要旨

柿内賢信記念賞研究助成金 奨励賞

研究課題

猪瀬浩平 「「人格」の構築学:自閉症をめぐる科学技術、政策、実践の多元的関係の解明」

自閉症は、「1000人に2~3人の割合で起こる障害であり、症状が発達期に現れ、その後生涯にわたる。対人関係のやりとりがうまく持てない『社会性』の問題や、言語発達の遅れと偏りがあるという『コミュニケーション』の問題、興味関心の対象が狭く偏っている『こだわり』の問題が、特徴的な領域を形作っている。その原因は未だ解明されていないが、脳の機能障害にあると考えられている」。以上が、自閉症の定説となっている。

我が国における「自閉症」の歴史は、1952年の精神医学会における症例報告を端緒とする。そしてL. カナーらの学説が輸入されることで、海外の研究知見とのすり合わせがなされる。その結果、1960年代の児童精神医学の設立をもたらし、自閉症の疾病論をめぐる論争を巻き起こした。その一方で、福祉施策・教育施策の拡充を求めて1968年に自閉症児の親の会の設立がなされ、一気に社会問題化がなされる。以後、実際に教育・療育に当たる教師やセラピスト、行政官、自閉症者の親、そして自閉症の当事者といった、多様な行為者を動員し、療育方法や病因論について、また教育・福祉政策での位置づけをめぐって、活発な論争と多様な実践を生みながら今日に至っている。

こうした歴史過程を踏まえて、本研究では、「自閉症」概念の構築を、「自閉症」をめぐる様々な行為者の折衝の過程として捉え、それを対象とする科学技術や福祉・教育政策の展開、知識・実践の標準化に留意し、療育機関でのフィールドワークや関係者への聞き取りを通じて、「自閉症者」とされる人格の多元的な構築過程を解明することを目的とする。それはまた一方で、現代社会において、「正常」とされる「非―自閉症者」の人格が如何に構築されるのか、その探求をも包含することになるだろう。

山内保典 「高校生向け授業の中で科学者は何を学ぶのか?―経験者へのインタビュー調査を通して―」

近年、科学者と市民の対話が試みられる中で、多くの成果と同時に、実践上の問題も見えてきました。その中で申請者は、教育という重要なコミュニケーション場面における科学者の「市民リテラシーの欠如」に関連する問題 ―例えば、「科学者が教授場面で見落としがちな市民とのギャップは何なのか」、「市民と対話する際、具体的に何が科学者に求められるのか」、さらに「市民と対話する素養を持つ研究者を育成するために、どのような高等教育が望ましいのか」など― に焦点を当てます。本研究では、市民との対話を行った科学者が実践の中で感じた「気づき」や「学び」の中に、こうした問題を解く貴重なヒントがあると考え、その実践者の経験知をインタビュー調査により集積し、分析します。

本研究は、名古屋大学大学院教育発達科学研究科による「高大連携によるキャリア教育プログラム開発事業」との連携で実施します。この事業では、名古屋大学の6つの研究科の研究者が、それぞれ10講義を附属学校の高校生向けに用意し、実際に高校の教壇に立つという教育プログラムが実施されています。この連携により、幅広い分野の研究者から収集された、多様で豊富な経験知の蓄積が見込まれます。

またインタビューは、記憶のバイアスを出来る限り取り除くため、ビデオや逐語録など記憶を呼び覚ます手がかりを提示しながら行います。また経験知の特性上、無理な言語化を避けるため、できる限り詳細なレベルで、丹念に体験エピソードを引き出します。そして、それをテキスト化することで、共有可能な実践事例集を作成します。

このデータをもとに、エピソードに盛り込まれた経験知を抽出し、カテゴリに分け、量的に整理します。また、示唆に富んだ事例については質的分析も行います。加えて、生徒による授業評価を参照し、市民と対話する際、科学者に求められる素養を検討します。これらを通して、市民との対話を視野に入れた高等教育のあり方を提案したいと思います。

柿内賢信記念賞研究助成金 実践賞

研究課題

比屋根 均 「自立した技術者像の実践的探求―テクノロジーカフェ、技術(者)倫理教育等の実践を通じての、新しい技術者像の創造研究―」

近年重要視されつつある技術者倫理は、米国からの輸入の段階から日本版技術者倫理の確立の過程に入りつつあるが、その中で大切なのはJABEEを初めワシントン・アコードが高度科学技術社会に共通に求めている"自立した技術者"の養成である。しかしそれがどういうものかの規定は無く、その探求は私たち技術者や社会に宿題として課されている。申請者はこれを(社)日本技術士会中部支部「ETの会(技術者倫理研究会)」を中心に、以下のような諸活動を通じて実践的に行なおうとするものである。1つ目の実践はテクノロジーカフェ、即ち技術者と市民との科学技術コミュニケーションの試みである。技術者は知の創造者、利用者であるとともに判断者、実践者でもあり、その提供する人工的機能物によって市民に直接影響を与える立場にある。従ってテクノロジーカフェはサイエンスカフェとは相互理解のし易さも重要性も異なるとともに、技術者の自立にとっても有効な手段である。2つ目は高等工学教育機関での技術者倫理教育である。これは"自立した技術者"像の総体を纏め上げる重要な手段となる。3つ目は技術者による技術者教育である。これは異分野技術者間の相互理解を深める活動であり、技術者のアイデンティティー確立にも寄与していくはずである。これらの実践によりETの会自身が"自立した技術者"の集団として成長することを通じて、課題は成し遂げられると考えている。

 
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