イベント & ニュース
投稿日 2010年11月1日

2010年度 科学技術社会論学会・柿内賢信記念賞 選考結果について

選考委員(五十音順)、*委員長

井口春和(核融合科学研究所)
柄本三代子(東京国際大学)
*黒田光太郎(名城大学)
白楽ロックビル(お茶の水女子大学)
桃木暁子(京都精華大学)

科学技術社会論学会では、財団法人倶進会の厚志をいただき、2005年度から「科学技術社会論・柿内賢信記念賞」(「かきうち よしのぶ」と読む)を設け、会員・非会員を問わず公募しています。6回目となる今年度は、8月末の締切を延長して9月15日までに、13件(学会賞4件、奨励賞5件、実践賞4件)の応募がありました。

選考委員会では公募終了後から約1ヶ月かけて、慎重に審議を重ね、下記のとおり学会賞1件、奨励賞1件、実践賞1件を授与することと決定いたしました。

【選考結果】

学会賞:

  • 小川眞里子「アジアにおける女性研究者に関する科学社会論的研究」
    研究助成金 50万円

奨励賞:

  • 小門穂「生殖補助医療の規制作りにおける市民参加―フランス生命倫理全国国民会議の検討から―」
    研究助成金 30万円

実践賞:

  • 立花浩司「ライフサイエンス分野におけるラボラトリースタディーズの検討-大学を中心として-」
    研究助成金 40万円

【選考を振り返って】

今年度は8月下旬に「第35回科学技術社会論学会(4S)と第9回科学技術社会論学会年次大会合同会議」が開催された影響もあって、当初設定した応募締切日8月31日までに応募が少ないことが懸念されたため、8月下旬に応募締切を9月15日までに延期しました。

選考に当たっては、「科学技術と社会の界面に生じるさまざまな問題に対して、真に学際的な視野から、批判的かつ建設的な学術的研究を行うためのフォーラム」という、当学会の設立趣旨を重視いたしました。この結果、純粋な自然科学研究あるいは事業開発とみなされる申請は高い評価を得られませんでした。また各候補については、応募とは異なる部門における授賞の可能性も検討しましたが、受賞者は結果的にはいずれも応募部門での受賞となりました。

「学会賞」に関しては「科学技術社会論の分野で実績があるか」を重視して、「きわめて優れた実績」か否かという視点で選考いたしました。「奨励賞」に関しては、「今後の研究の発展が期待されるか否か」という視点を加えて審査を行いました。「実践賞」に関しては、「実践的活動を踏まえた」研究提案か否かという視点で選考いたしました。

選考に当たって、選考委員5人は各人の基準で選考しましたが、選考委員の専門、経歴、年齢、性別、地域など、多様であり、結果的にその価値基準の多様さが反映された審査であったといえます。

【選評】

学会賞:
小川眞里子「アジアにおける女性研究者に関する科学社会論的研究」

小川眞里子氏は、三重大学・人文学部文化学科・教授として、少なくともここ10年間は、科学技術がジェンダーとクロスする領域の日本を代表する研究活動を進めてこられました。最近は、『Gender and Science: Studies across Cultures』(Cambridge University Press India Pvt. Ltd., forthcoming)に”Japanese Women Scientists: Trends and Strategies”のタイトルで論文を、また、『フェミニズム理論』(2009年、岩波書店)で「科学知識とジェンダー」(260 -273頁)の論文を発表しています。他に5冊の著書、10冊の翻訳書、6編の学術論文を発表し、日本の女性研究者問題を日本社会および国際社会に提示してきました。とりわけ、2005年からアジアにおける女性研究者問題に焦点を絞った活動を続け、本申請では、韓国、台湾、日本という類似点が多いアジアの3カ国に、インドを加えた4カ国の理系女性研究者について、社会学的問題を洗い出し解決に向けての討論をするワークショップの開催を計画しています。このように、理系女性研究者問題を科学社会論的にしかも国際的に研究する点が小川眞里子氏のユニークな点であります。理系女性研究者問題の解決に向けての可能性を、実践および理論の両面から国際的に研究することは、科学技術社会論学会の研究活動のあるべき姿の1つとの認識から「学会賞」に値すると判断しました。

奨励賞:
小門穂「生殖補助医療の規制作りにおける市民参加 - フランス生命倫理全国国民会議の検討から - 」

小門氏の研究は、生殖補助医療という人間の価値観に深くかかわる技術が社会に浸透する際に、社会はどう対応するのか、という先進国共通の課題に関するものです。具体的には、フランスにおける生殖補助医療に関する規制作りへの「市民参加」のあり方を明らかにし、それによって日本におけるルール作りに寄与しようとするものです。フランスでは、生殖補助医療を規制する「生命倫理法」(1994 )が2010年に改正されるのに先立って、市民参加を目的として「生命倫理全国国民会議」が組織されました。本研究では、この「生命倫理全国国民会議」と生命倫理法改正そのものに関して、文献調査と関係者へのインタビューを行い、市民参加が必要とされた背景、法改正の過程で市民参加がもつ重み、参加した市民の認識がどのようなものか、を探ろうとします。

フランスでは従来、科学技術政策への市民の参加が少なく、議会と専門家だけで政策決定を行ってきました。これは日本と似た情況です。そのなかで、上記の生命倫理法の改正にあたってなぜ市民参加が必要とされたのでしょうか。小門氏の研究によって生殖補助医療に関する領域での市民参加の実態が明らかにされれば、その成果は日本における同じ領域での対応を検討するうえで大いに参考になるでしょう。

高いフランス語運用能力に支えられたこの小門氏の研究は、英語の情報が十分とはいえない非英語圏の国や地域の情況を直接、適確に把握できるという意味でも、たいへん価値あるものです。

実践賞:
立花浩司「ライフサイエンス分野におけるラボラトリー=スタディーズの検討――大学を中心として」

国家的プロジェクトの一貫としても今後の研究成果拡充が期待されているライフサイエンス分野ですが、若手研究者の質の低下が指摘されていることや、アカデミックポストの不足が顕著であることを立花氏は問題視しています。これを前提として、ラボラトリー=スタディーズの手法により、ライフサイエンス系大学研究室内における科学的知の生産過程、およびキャリア形成をめぐる若手研究者たちの考えや行動などを明らかにすることを研究目的としています。

実践賞であるからには、とくに若手研究者のキャリア開発に関する新たなる知見の獲得を大いに期待しています。またこれまでにも立花氏は、サイエンスコミュニケーションにかかわる活動を積極的に行ってきているので、科学者側からみたコミュニケーションのさらなる可能性を探る研究としても成果が得られることを期待しています。

調査対象となる研究室とのラポールをいかに築いていけるか、といった困難が予想される参与観察の技法を用いますが、この種の困難はフィールドワーク調査につきものです。数々の困難をクリアし、研究者集団の今後の実践に貢献することを願っております。

【総評】

選出までの過程で研究手法の妥当性や実行可能性などについて多くの議論が交わされました。このことは、STS研究の学際性や実践性を反映するものであり、本賞を含む当学会の活動を通じてSTS研究者間で多様な方法論や研究・実践手法を共有することが如何に困難な作業であるかを示しています。今回受賞者の研究が、単独の研究として優れた成果を生み出すだけではなく、STSの知的共通基盤の形成に貢献されることを期待します。来年度は多数の応募があることを期待して、本年度の選考を終えます。

【統計データ】

受賞者研究計画要旨

学会賞

小川眞里子 「アジアにおける女性研究者に関する科学社会論的研究」

女性研究者の増加をめざす施策は、アメリカやEUで2000年前後から熱心に推し進められてきている。これに対しアジアの国々が無関心であったわけではないが、外への情報発信は遅々として進まず、欧米からはアジアの女性研究者の動向に関する情報を強く求められるようになっていた。

そこで応募者は2005~07年トヨタ財団や科研費基盤研究C(企画調査)の助成を受けて国際ワークショップを開催しアジア各国の女性研究者の概要の把握に努めた。その後、このワークショップを継承する形で、韓国や台湾でも会議(欧米からの参加者も含む)が開催された。こうした経緯を経てアジアの女性研究者の問題は、とりあえず韓国・台湾・日本という比較的類似点をもった3カ国における理系女性研究者について、科学社会学的視点から互いに啓発し合い、解決に向けた努力を行うことが現実的であると判断するようになった。

従来は多くの国の理系女性研究者が互いの現状を報告する会合であったが、これを改め、韓国・台湾・日本の3カ国で2011年の夏に合同会議を設定し、比較の基礎となる指標を明確にした上でそれぞれの報告を行う。会議の成果は、科学技術社会論学会で研究発表を行い、『科学技術社会論研究』に寄稿する。また欧米のからの期待にこたえられるよう、英文の発信も考えたい。

過去にメンバーが一堂に会する3回の会合を経ることによって参加者の関心の摺合わせは明確になってきている。指標の一例をあげれば、■理系選択といった進路の振り分けがどのように行われているのか。■どのような制度が、女子の理系選択にいっそう好都合であるのか。■科学研究者、技術研究者というキャリアが、女性を不利にする顕著な社会的問題はなにか。■理系博士課程修了者と当該分野の女性研究者の比率は、概ね一致するものか。ひどく乖離しているのはどのような分野か。国ごとの違いがあれば、その解消の手立てを探る。■夫婦とも研究者というカップルの比率、抱える困難、その解決に向けた取り組みはどのようなものか。■企業内の女性研究者の活躍状況の比較。・・・

過去のワークショップが、各国の研究者がそれぞれの関心で多くの聴衆にむけて発表を行い、発表だけに終わりがちでディスカッションの掘り下げが足りなかった点を大いに改善して、将来へ繋がる研究としたい。

奨励賞

小門 穂 「生殖補助医療の規制作りにおける市民参加-フランス生命倫理全国国民会議の検討から-」

本研究は,フランスにおいて2009年に実施された生命倫理全国国民会議の運営委員,事務局担当者,研修担当者および参加した市民に対するインタビュー調査を実施し,フランスにおける生殖補助医療に関するルール作りへの「市民参加」について、①なぜ必要とされたのか、②法改正の中でどれくらいの重要性を持つのか、③参加した市民の認識はどのようなものかを分析することを目的とする.

フランスでは,1994年以降,生命倫理法と総称される法律群により先端医療技術が規制されており,生殖補助医療もこの枠内で管理されている.2011年初頭に予定されている生命倫理法の改正作業の一環として,これまでの議論が議会と専門家だけに限られていたという反省にたち,議論への市民参加を促進するように「生命倫理全国国民会議」が組織された.

改正における生殖補助医療に関する最大の争点は,現在禁じられている代理出産を合法化するかどうかということである.1994年法が作られてから15年経ち,禁止という原則を貫きにくくなっている状況であるといえる.代理出産を容認するかどうかは,生殖や親子関係についての価値観の反映である.「人」の領域,つまり私的な場所での思想信条に関わる多様な価値観を,これまでは一部の専門家が立法を通じ集約してきたが,そのやりかたでは対応できなくなってきた.そこで私的な領域の価値観を公共社会の領域での規制作りに取り込むための新たな回路として,「市民参加」という仕掛けが必要とされたのではないだろうかと考えている.

生殖補助医療という,従来の親子観・生殖観を揺るがす可能性のある技術が社会に浸透する際に,社会はどう対応するのかという問題は,現在,先進国共通の課題であると言えよう.本研究により,フランスにおける生殖補助医療の規制作りに対する市民参加のあり方を明らかにし,日本のルール作りにも寄与できるものと考える.

実践賞

立花浩司「ライフサイエンス分野におけるラボラトリー=スタディーズの検討―大学を中心として―」

ライフサイエンス研究は,科学技術基本計画における重点推進分野のひとつとして,予算の優先的な配分が続けられてきた.新成長戦略としてライフ・イノベーションを掲げる第4期科学技術基本計画においても,社会ニーズに対応した研究成果の期待のもとでの投資が継続されるものと考えられる.研究成果のアウトカムが期待される一方,研究活動の根幹をなす若手研究者の質低下の問題が指摘されている.さらに,アカデミックポストに就けないポストドクター(以下ポスドクと略記)の割合はライフサイエンス分野で顕著に高く,研究活動と並行して幅広いキャリア開発のための機会を提供することが,社会的な課題となっている.このような中,将来の研究者,あるいは科学知識を備えた高度専門職業人となるべきポスドクや学生達が研究室の中でどのような活動を行っているかについての文化人類学的視点,科学技術社会論的な視点からのアプローチが必需と考え,本研究は立案されている.国内でライフサイエンス分野におけるラボラトリー=スタディーズの先行研究は,管見の限り2,3を除けばなされておらず,大学の研究室におけるラボメンバーのキャリア開発も含めた視点で論じられているものに限れば,ほぼ皆無と言って良い.

このような背景から,本研究では,大学におけるライフサイエンス系研究室において,科学的知識の生産とのコラボレーションの過程を,ヒアリング,インタビュー等の手法を織り交ぜつつエスノグラフィックに記述・分析することによって,高度専門職業人材育成の観点からの社会的課題を抽出する.

それによって,大学の(ライフサイエンス系)研究室を取り巻く諸状況,様々な諸制約を把握するとともに,ポスドクや学生達へのあるべき支援に関する有用な視座を得る.また,他の研究室研究プロジェクトやキャリア開発プログラム等との比較の視点から,理論的のみならず実務的見地から広く研究者コミュニティへの認知をはかりたいと考えている.

受賞者研究経過報告

奨励賞

課題名
生殖補助医療の規制づくりにおける市民参加
―フランス生命倫理全国国民会議の検討から―

小門 穂(大阪教育大学教育学部非常勤講師)

柿内賢信記念賞奨励賞の授与に感謝申し上げます.研究を深めるチャンスをいただけまして,大変励みになりました.現時点での報告を致します.

成果の概要

本研究は,フランスにおいて生命倫理法の第二回改正準備作業の一環として2009年に実施された生命倫理全国国民会議に関する文献調査および関係者へのインタビュー調査を通じて,生殖補助医療に関わる規制の作成や維持への「市民参加」について,それが必要とされた理由や,法改正における重要性,参加した市民の認識の分析を目的とする.

生命倫理全国国民会議とは2011年の生命倫理法改正に先立ち,これまでの議論が議会と専門家だけに限られていたという反省にたち,コンセンサス会議をモデルとして専門家と市民の対話を促すイベントである.

生命倫理法改正における生殖補助医療に関する争点の一つは,代理出産の禁止を維持するかどうかというものであった.生命倫理全国国民会議では,生殖補助医療についての公開フォーラムの時間の半分以上が代理出産について割かれ,市民パネルは全員一致で禁止の維持および外国で代理出産により出生した子どもの身分の安定のための措置が必要であると勧告した.

研究の進行状況としては,2011年中に関連論文や法改正審議録などを対象とする文献調査を実施した.

その結果,生命倫理全国国民会議の勧告が法改正審議において全面的に重視されたわけではないことが分かった.例えば,2010年秋以降,国会での法改正審議が開始されると,代理出産については委員会審議で却下され,本会議で審議されることなく禁止が維持された.禁止維持の理由について市民パネルの見解は根拠の一つとされたが,子の身分について不安定な現状について本会議で審議されることなく改善されなかった.

現時点では,私的な領域の価値観を公共社会の領域での規制作りに取り込むために「市民参加」というお墨付きが必要とされたのではないだろうかと考えている.

引き続き2012年3月にインタビューを含めた現地調査を行い,2012年中に科学技術社会論学会および日本生命倫理学会において報告するつもりである.

実践賞
課題名「ライフサイエンス分野におけるラボラトリースタディーズの検討 -大学を中心として-」

立花浩司(北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科博士前期課程)


柿内賢信記念賞実践賞を授与いただき,本当にありがとうございました.独自の研究費を持たず,かかる費用すべてを自費で賄う大学院生の私にとって,実践賞の受賞は研究活動の大きな助けとなりました.途中3月に東日本大震災の影響を受け,電力消費の影響が少なくないライフサイエンス分野のラボラトリースタディーズの継続が困難となりましたが,目的は変えずに実現可能な形で手法を見直しました.以下,現時点での報告を致します.

成果の概要

本研究は,当初,日本のライフサイエンス分野の大学研究室において,ラボラトリー=スタディーズの手法により,科学的知の生産過程およびキャリア形成をめぐる若手研究者たちの考えや行動などを明らかにし,研究者集団の今後の実践に貢献することを研究目的としていた.

震災直前の2010年12月から2011年2月にかけて,関東の理系私立大学において,研究発表ゼミの観察およびインタビュー調査を実施した.しかし震災後,計画停電を筆頭とする電力事情の悪化,余震の多発に伴う影響および震災に起因する現職の環境変化等に伴い,平日に職場を離れて行うラボラトリー=スタディーズの手法自体が困難となったため,研究者集団の今後の実践に貢献するという目的は維持しつつ,ポスト3.11の制約条件下で実施可能な手法に方針転換した.

2011年7月には静岡市内で行われたサイエンスカフェ およびアフターカフェ(懇親会)に参加し,東京と京都所在のライフサイエンス系の大学研究室に在籍する博士後期課程の大学院生と意見交換を実施し知見を得た.

2011年9月から12月にかけて,総研大,奈良先端大および本学の学生有志と協働し,大学院生のための異分野交流会「GakuSayNet大学院生交流会 」を企画実施し,活動を通じて(ライフサイエンス系を含めた)大学院生にまつわる問題の抽出と改善に向けた実践を行った.

2011年6月から2012年2月にかけて,研究室運営のヘッドであるPI(principle investigator,大学の場合は教員)を巻き込むことで大学研究室の運営そのものを変えていくことを目標に,「いきいき研究室増産プロジェクトFORUM2012 研究室の当事者による,当事者のための「研究室経営論」をつくる」(http://bit.ly/xXFj8w)を企画実施した.

研究発表ゼミの観察およびインタビュー調査で得られた知見は2011年7月でのカフェでの発言に生かし,その後「GakuSayNet大学院生交流会」および「いきいき研究室増産プロジェクトFORUM2012」における実践活動に反映させている.

途中経過は,2011年度において研究・技術計画学会,科学技術社会論学会および知識共創フォーラムにおいて報告を行った.

引き続き,「GakuSayNet大学院生交流会」の活動を拡張し,ライフサイエンス分野における科学的知の生産過程の価値共創を考えるための勉強会を開催することによって実践につなげていくとともに,次回「GakuSayNet大学院生交流会」にも関与することによって大学院生の考えや行動を実際の活動を通じて観察していくことを考えている.

今後の経過についても,科学技術社会論学会等の学会発表の他,修士論文の形でまとめ,本学のリポジトリから公開し誰もが自由に閲覧し利活用できるようにしたい.

口頭発表等
  • ライフサイエンス系大学研究室における知識創造
    第2回 知識共創フォーラム  2012年3月  知識共創フォーラム実行委員会
  • ライフサイエンス分野における研究室教育-多様な人材育成の観点から
    科学技術社会論学会 第10回年次研究大会  2011年12月 科学技術社会論学会
  • ライフサイエンス系の研究室教育における人材育成の課題抽出
    研究・技術計画学会第26回年次学術大会  2011年10月  研究・技術計画学会
  • これからのライフサイエンス研究のありかたを考える
    STS Network Japan 夏の学校2011「ポストゲノム時代のSTS」 
    2011年8月  STS Network Japan

学会賞
課題名「アジアにおける女性研究者に関する科学社会論的研究」

小川眞里子 (三重大学人文学部 教授、2012年4月より三重大学名誉教授)

柿内賢信記念賞学会賞を授与していただき、ありがとうございました。この助成金によって、しばらく滞っていた韓国・台湾・日本の3か国による合同のワークショップを開催することが出来ましたので、以下にご報告いたします。今回、2008年以来の懸案であった3国間の正確な数値的比較を行えるようにしたいと考えました。韓国、台湾の多忙を極める研究者の招聘ということもあって、ワークショップの開催は2012年1月30日、31日となりました。2008年の台湾との指標会議での調整で、明確な比較の基盤を作る重要性を痛感し、今回はそれを取り決めて、具体的な数値比較の土台を作りました。

2012年9月に韓国で行われる第10回東アジアSTSネットワーク会議において再び同じメンバーでワークショップを開催する予定にしており、このときに共通の基盤で収集したデータをもとにし、科学社会論的考察を行って意見交換を行いたいと考えています。

なお、2012年1月のワークショップの内容は、参加者のPPTスライドとともに、 http://www.wstna.org/ にアップしてありますので、ご覧いただければ幸いです。

なお、類似の内容で作成しました冊子冒頭の私のあいさつ文のみを、下記に記させていただきました。

国際ワークショップ 東アジアにおける「女性と科学/技術」

ここにご紹介するのは、2012年1月30日、31日にお茶大で行われた標題のワークショップの発表内容です。

2006年にトヨタ財団からの助成金のみならず科研費の企画プログラムも加わって潤沢な資金を得ることができ、理系女性研究者、理系女子学生に関する国際的な社会学的ワークショップをはじめて開催することが出来ました。以来、そのときの参加者が韓国(2007)や台湾(2008)で、同様のワークショップを規模を拡大しながら継承してくださり、かなり強固な仲間意識をもって、協力し合う体制が出来てきました。

1年間の中断があったものの、2010年に4Sの国際会議が東京で開催され、最後まで残してあったトヨタ財団の残金を有効に活用して、台湾からLi-Ling Tsai 先生をコメンテーターとしてお招きし、私たちのワークショップに関わってもらうことが出来ました。

近年の韓国における女性研究者支援策はめざましく、韓国の女性研究者比率はここ数年で日本を上回り、さらにその差を大きくしつつ、順調な経済発展の基盤をなしていると言われています。翻ってわが国はといえば、文科省によるさまざまな女性研究支援策にもかかわらず、未だ女性比率は大きくは動き出していません。この様な状況の原因を探るため、個別の研究発表のほか、今回はかなり数値的な比較へと収束させることを狙いました。日本の人口規模の半分が韓国、韓国の半分が台湾といった数値関係にあるものの、私たち東アジアの3国はいずれも女性研究者の増加をめざしています。

ここでは、まず個々の研究発表が中心ですが、現在各種の数値の擦り合わせを行っており、遠からずその成果をお目にかけることができるよう、協力し努力したいと思っています。

このワークショップは、2010年度の柿内賢信記念賞の学会賞を小川の「アジアにおける女性研究者に関する科学社会論的研究」に授与されたことにより、その研究助成金で開催したものです。会場は参加者にとって便利なお茶大のジェンダー研究センターを利用させていただきました。ご尽力くださった同センターの舘かおる教授に、心からのお礼を申しあげます。これをもって最初のごあいさつとさせていただきます。

2012年3月
三重大学人文学部  小川眞里子