設立趣意書

科学技術社会論学会会長
小林傳司(南山大学)

20世紀は、西欧に誕生した科学という知的営為が全世界に拡大するとともに、二度の世界大戦を通じて技術と結びつき、急速に発展した世紀であった。この科学技術とでも呼ぶべき営みは、その産物である膨大な製品やサービスの提供を通じて、豊かさを実現し、日常生活を根底から変容させるとともに、人々の意識のあり方や社会のあり方にも深い影響を及ぼしてきた。しかし、同時に、軍事技術はいうに及ばず、公害や薬害、各種の事故など科学技術に起因するさまざまな負の産物も生み出してきた。

21世紀を迎え、自然環境に拮抗する人工物環境の拡大によって深刻化する地球環境問題、情報技術や生命技術の発展に伴う伝統的生活スタイルや価値観との相克など、社会的存在としての科学技術によって生じているさまざまな問題が、社会システムや思想上の課題として顕在化してきている。今や、われわれは、過去の経験に学びつつ、科学技術と人間・社会の間に新たな関係を構築することが求められているのである。

今日の科学技術が巨大な営みとして、産業、政治、行政、教育、医療など社会の多様なセクターと密接な関わりを取り結んでいる以上、この「新たな関係」の構築のためには、人文・社会系の学問から、理学・工学・医学などの自然系の諸科学にまたがるトランス・ディシプリナリーな研究を新たに組織化することが不可欠である。

しかも、このような研究は、科学技術の生み出す知識の流通と消費の場面にまで射程の広がるものであり、科学ジャーナリズムやメディア、教育、一般市民の役割をも視野に入れた学術研究として展開されるべきであろう。

また、現代の科学技術は一国民国家の領域を超出した活動であり、「新たな関係」の構築の作業が必然的に、国際的視野を伴うことも銘記されねばならない。

以上の認識のもと、われわれは、科学技術と社会の界面に生じるさまざまな問題に対して、真に学際的な視野から、批判的かつ建設的な学術的研究を行うためのフォーラムを創出することを目指し、科学技術社会論学会を設立するものである。

2001年10月7日