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投稿日 2007年11月1日

2007年度柿内賢信記念賞研究助成金の選考結果について

柿内賢信記念賞研究助成金選考委員会
選考委員(五十音順)

上田昌文(NPO法人 市民科学研究室)
調麻佐志(東京農工大学)
塚原修一(国立教育政策研究所)
中島秀人(東京工業大学)
平田光司 (委員長、総合研究大学院大学)
宗像慎太郎(三菱UFJリサーチ&コンサルティング㈱)

科学技術社会論学会では、財団法人倶進会の厚志をいただき2005年度に「柿内賢信記念賞研究助成金」を設け、毎年公募して来ました。本事業について、漸く多くの方の知るところとなり、また学会でも周知に努めたこともあって、3回目となる今年度には23件にのぼる(記念賞3件、奨励賞14件、実践賞5件、無指定1件)応募がありました。応募の内容も全体的にレベルが上がっていると感じます。本学会ではこの事業をさらに進め、科学技術社会論の発展に努めたいと思っています。

本学会では研究助成金選考委員会を設け慎重に審議し、下記のとおり、記念賞1件、奨励賞1件、実践賞1件を選定し、授賞を決定いたしました。

【選考結果】

奨励賞:

日比野愛子「フィールドワークを通じた生命科学実験室の生態に関する研究」

実践賞:

隈本 邦彦 「津波のリスクを地域住民が正しく知るための手法の開発 ―サイエンス・ショップの実現を目指して―」

記念賞:

白楽ロックビル 「バイオ政治学の構築と発展」

<研究内容要旨は後日学会Webにて公開>

選考を振り返って

選考に当たっては「科学技術と社会の新たな関係の構築」という目的に向けた、新鮮かつ着実な研究であるかを基本的な視点といたしました。応募されたのとは異なる部門における授賞の可能性も考慮し、部門の指定のないものも選考の対象としましたが、結果的には応募した部門における授賞となりました。

「奨励賞」に関しては、「今後の研究の発展が期待されるか否か」という視点を加えて審査を行いました。「実践賞」に関しては、「実践的活動を踏まえた」研究提案か否かという視点で選考いたしました。科学技術社会論は従来の学術研究の手法や流儀に尽きるものではなく、広く社会的に提言や発信を行うことも視野に入れており、本賞では、「実践的活動を踏まえた」研究を支援するものです。「記念賞」に関しては、科学技術社会論の分野での実績を評価し、それを発展させる研究提案か否かという視点で選考いたしました。

この賞は、今後も継続いたします。今回の受賞者の方々には、本賞の趣旨をご理解いただき、充実した成果を上げてくださるようお願い申し上げます。

「奨励賞」選評

日比野愛子「フィールドワークを通じた生命科学実験室の生態に関する研究」

日比野氏の研究は、いわゆるラボラトリースタディーと言えるものですが、欧米では研究が一段落し、主要な論点は出尽くしたとされているようです。欧米で十分に研究が行われたからと言って、もはや日本でこのような研究をする必要が無いということはないはずで、日本の研究環境で再度ラボラトリースタディーを行うのは、日本における科学技術社会論を構築する上で欠くことのできないステップであるだけではなく、欧米では見落とされていた点を発見する可能性も大きいでしょう。また日比野氏の研究計画には、先端的な装置(原子間力顕微鏡)に関わる人・物のネットワークに注目するという、アクターネットワークセオリー(ANT)の要素も含まれています。談話分析が中心だった参与観察にANTの要素が加わり、従来と異なる分析が可能になるという点が、ラボラトリースタディーの新たな展開を図るものとして評価されました。なお、日比野氏は調査する研究室に事務補佐員として勤務し生活の糧を得ることで、インサイダー的な視点からの観察に最適な場所を確保しています。これは科学技術社会論研究のスタイルの一つとして注目に値するものであります。

「実践賞」選評

隈本 邦彦 「津波のリスクを地域住民が正しく知るための手法の開発 ―サイエンス・ショップの実現を目指して―」

隈本氏の研究は津波防災を推進したい市町村の要請に答え、最近の知見に基づく津波のリスクを地域住民に正しく伝えるための「サイエンス・ショップ」を行い、津波ハザードマップを作成した専門家と対象となる地域住民の双方向コミュニケーションを目指すものです。リスクは承知していても行動に移さない地域住民もいるので、専門家の意見をわかりやすく、正しく伝えるだけではリスクコミュニケーションとしては不十分であり、このような住民とのコミュニケーションによって、科学技術コミュニケーター養成研究にも重要な知見が得られると期待されます。サイエンスコミュニケーションの目指すべき実践的な課題として期待されます。

「記念賞」選評

白楽ロックビル 「バイオ政治学の構築と発展」

白楽氏は生命科学の研究者であるとともに、研究者のキャリアパス問題、科学における不正問題、メディアにおける生命科学の表象、研究費配分システムと研究者評価の分析など、科学者に身近な問題について、科学者ならではの視点から、鋭く、しかもわかりやすく情報を発信し続け、科学技術社会論に大きな寄与をしてきました。これらの論点は、氏の「バイオ政治学」に体系的に位置づけられべきものですが、そのような体系化の作業を行うことが、本研究計画のエッセンスと思われます。これまでの成果の上にさらに調査を進め、教科書として体系的にまとめることは、科学技術社会論の発展に寄与することはもちろん、科学技術社会論を多くのバイオ研究者、科学研究者に近づきやすいものにすることで、科学技術社会論の新たな発展のきっかけともなりえるものであるとの認識から「記念賞」に値するものと判断しました。

受賞者成果報告

奨励賞:

日比野愛子(京都大学大学院人間・環境学研究科)
「フィールドワークを通じた生命科学実験室の生態に関する研究」

実践賞:

隈本邦彦(江戸川大学メディアコミュニケーション学部/北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット)
「津波のリスクを地域住民が正しく知るための手法の開発 ―サイエンス・ショップの実現を目指して―」

記念賞:

白楽ロックビル(お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科)
「バイオ政治学の構築と発展」