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投稿日 2005年11月1日

2005年度柿内賢信記念賞研究助成金の選考結果について

柿内賢信記念賞研究助成金選考委員会委員長
小林傳司(大阪大学)
審査委員(五十音順)
鬼頭秀一(東京大学)
小林信一(筑波大学)
塚原修一(国立教育政策研究所)
辻篤子(朝日新聞社)

 このたび、財団法人倶進会の厚志をいただき、科学技術社会論学会では「柿内賢信記念賞研究助成金」を設け、科学技術社会論研究の発展に資することを目的に、学会を越えて広く本賞の公募を行いました。

 財団法人倶進会は「薫育事業を通じて国家に有用な人材を養成する」ことを目的として、日本の生化学を育てた柿内三郎東京大学教授が退官にあたり、私財を寄付して1943年8月14日に設立されたものであります(http://www.gushinkai.com/)。今回の賞は、柿内三郎氏のご長男で倶進会の理事長を務められ、物理学のみならず科学と社会の関係について深い関心をお持ちの柿内賢信氏を記念して「柿内賢信記念賞」と命名されたものです。財団法人倶進会におかれましては、本学会に研究助成金のご提供をいただきましたことを、ここにあらためて感謝したいと思います。

 本学会では、「柿内賢信記念賞」の発足に当たり、慎重に検討した結果、「記念賞研究助成金」、「奨励賞研究助成金」、「実践賞研究助成金」の三つの部門を設け公募することとしました。応募資格についても、本学会会員以外の応募も認めることとしました。
その結果、今年度は8件(「記念賞」1件、「奨励賞」4件、「実践賞」3件)の応募があり、選考委員会で慎重に審議し、下記の2名の方の授賞を決定いたしました。<研究内容要旨は別紙参照>

【選考結果】

記念賞:

該当者なし

奨励賞(研究助成金50万円):

竹田恵子「生殖補助医療受診に対する「抵抗感」の分析-各種ART専門職との意識の相違に注目して-」

実践賞(研究助成金50万円):

榎木英介「日本の科学技術政策形成における非営利組織の役割」

選考を振り返って

 今回は最初の授賞であり、応募数も8件と少なく、選考においては本賞の将来の発展という視点から、慎重に検討を重ねました。

 選考に当たっては、本学会の設立の趣旨に鑑み、「科学技術と社会の新たな関係の構築」という目的に向けて新鮮な角度から着実な研究が提案されているか否か、を基本的な視点といたしました。しかし、「記念賞」に関しては応募件数が1件であり比較考量の上での「審査」が成り立ちにくいという判断のもと、該当者なしといたしました。

 「奨励賞」に関しては、この基本的視点に加え「今後の研究の発展が期待されるか否か」という視点の下、審査を行いました。応募の中には、極めて構想は大きいが現実の研究としては実現可能性が危ぶまれるもの、重要な視点ではあるものの現在から未来の課題とのつながりにおいて少し疑問の残るもの、などがあり、選考は難航しました。しかし、いずれも現代社会における「科学技術と社会の関係」を再考しようとする意欲にあふれており、本部門の趣旨は理解していただけたと安心いたしました。今回は経験的研究が多かったといえますが、理論的研究も歓迎いたします。どうか奮って応募していただきたいと思います。

 「実践賞」に関しては、先の基本的視点に加え、本学会が「批判的かつ建設的な学術的研究」を重視することに鑑み、「実践的活動を踏まえた」研究提案か否かという視点で選考いたしました。科学技術社会論は従来の学術研究の手法や流儀に尽きるものではなく、広く社会的に提言や発信を行うことも視野に入れており、本賞では、「実践的活動を踏まえた」研究を支援したいと考えております。今回は、この趣旨に叶う応募があり、選考委員会では多角的な検討を加えました。すでにかなりの実践活動を行っている方々からも応募があり、論議は尽きませんでしたが、最終的に今後の活動の支援という観点から受賞者を決定いたしました。

 この賞は、来年度以降も継続いたします。今回の受賞者の方々には、本賞の趣旨をご理解いただき、充実した成果を上げてくださるようお願い申し上げます。そのような活動の積み重ねこそが、本賞の意義を広く世に知らせ、また科学技術社会論研究の発展につながると考えております。来年度以降、より多数の方々の応募を期待しております

「奨励賞」選評

竹田恵子「生殖補助医療受診に対する「抵抗感」の分析-各種ART専門職との意識の相違に注目して-」

 現在の科学技術社会論の領域で、科学技術や科学政策に関する理論的構造的分析や、討議などのコミュニケーションに関わる領域での議論が中心的に行われている中で、人々が科学技術を受け入れ、評価し、また、そのことを正当化していく際に、科学技術そのものやその社会的あり方、制度状況に対して「身体」という側面から捉えていく研究の領域は、まだまだ未成熟と言えます。しかし、先端医療のように、人間の身体に対して浸襲的に入り込み、それを受け入れる人間も、否応なくそれにコミットせざるをえない状況の中で、理念的な評価や正当化のレベルでは科学技術に依拠した論理を受け入れていても、技術そのものや技術の社会的状況、制度に対する「身体」的な反応が、一見矛盾する形で先鋭化して出現することはよくあることです。その「矛盾」も含めた心理学的、社会学的な構造を明らかにしていくことは、科学技術社会論の今後の展開を考えると重要な領域だと言えます。

 竹田氏は、生殖補助医療(ART)というその典型的な技術を取り上げ、「子供をつくる」という社会的にも広範に受け入れられつつある心性と寄り添った科学技術でありながら、それに対する「抵抗感」が存在するという「矛盾」に着目し、そのことにかかわって、受診者本人だけでなく、その技術にかかわるさまざまなタイプの専門職従事者、受診者の将来的な可能性を持つ人たちまで含めて、心理学的、社会学的な分析を行い、科学技術と社会の間の重要な界面を明らかにしようとしています。この研究は、科学技術の身体性にかかわる社会的側面という、まだ十分に成熟しているとはいえませんが、今後ますます求められてくる領域を開拓するという点でも重要であり、奨励賞としてふさわしいと考えました。

 科学技術社会論の領域では、科学技術政策や科学技術をめぐるコミュニケーションにかかわる領域でも、まだなお、科学論を中心とした理論的研究に偏った状況にあり、社会学、心理学、人類学、経済学、政治学も含めたさまざまな人文社会科学の視点から科学技術を捉えて、純粋な理論的な研究に留まらず、科学技術と社会の現場に向き合った経験的な研究を蓄積して、その中から新たな理論を構築していくという方向性がまだまだ弱いのが現状です。今後は、隣接の多くの人文社会科学の研究を呼び込み、交流しつつ、その方向の研究を進めていくことの重要性もここで指摘しておきたいと思います。

「実践賞」選評

榎木英介「日本の科学技術政策形成における非営利組織の役割」

 多元的社会においては、一部の専門家や行政のみが問題提起をすればよいというものではありません。社会の中に存在する多様な価値観を反映するように、問題意識を持った個人やグループが問題提起をし、より多くの人々に問題意識が共有されていくことが大切です。実践賞研究助成金は、このような活動に意義を認め、支援していくものです。
 このような役割を担う個人やグループ、その活動をアドボケイト(advocate)、アドボカシー(advocacy)と表現します。NPOは(たとえ明確に定式化できていないとしても)共通の問題意識を持つ人々が集まることで、社会的問題を顕在化するための「装置」であり、アドボカシーを担う存在の一つです。

 今回の授賞者は、若手研究者の立場から科学技術活動や科学技術政策に関する問題提起と実践的活動を継続し、NPOサイエンス・コミュニケーション(サイコムジャパン)を設立後もその中心となって活動を推進してきました。その意味で、実践賞研究助成金の対象者として適格であることはいうまでもありません。また、その提案内容も、科学技術政策に関与しうるNPOのあり方を模索するものであり、わが国の科学技術政策や「科学技術と社会」が成熟していく上で、避けられない課題であるとともに、本賞の意図にも沿うものです。これらの理由から、本提案は実践賞研究助成金の受賞課題としてふさわしいものであると、審査委員会は判断いたしました。

 授賞に際して2点ほど、研究の方向性についての助言と激励を述べます。

 第1は、助成期間が1年間に限定されているので、助成期間内に実施することを欲張らないでいただきたいということです。受賞者も述べているとおり、わが国では科学技術政策分野のNPOは未成熟です。政策提言に至る道筋や手法も未経験なことばかりです。単に情報提供をすれば政策提言ができるという短絡的なものではないでしょう。たとえNPOであっても(NPOであるからこそ)、その活動には社会的な責任と質の保証が求められます。したがって、成果を急いで行き当たりばったりに進めるよりは、ロードマップを考えた上で「着実」に検討と試行を重ねていくべきでしょう。海外の事例なとも、やみくもに調査するのではなく、ねらいを明確にして調査することが必要です。結論を急ぐよりは、着実に次につながる成果を上げることを期待します。

 第2に、実践賞研究助成金は研究提案をした個人またはグループ(共同研究者)に授与されるものであり、NPOに運営資金を授与するような性質のものではありませんが、本賞の趣旨に照らして、両者が有機的に協力して活動を展開することを期待します。調査研究を実施する上では、フィールドを持つことは利点です。同時にNPOにとっても新しい挑戦をする機会を得ることは意味があることでしょう。両者にとってメリットがある形で調査研究が進むこと、また、今回の調査研究が一つの試行となり、将来的にはそれがNPOの活動の一部として展開していくことを期待します。

 最後に次回以降の応募者のために付言いたします。今回の受賞は、問題意識が広く、より一般性のあるテーマを扱っていますが、実践賞研究助成金ではより個別的な問題意識に基づく提案も歓迎しています。同じく、NPOに限らず、教員、博物館スタッフ、メディア関係者、コミュニティのグループ等の多様な皆様からの提案を歓迎します。また、問題意識はあってもどのように調査研究を進めてよいかわからないという場合には、共同研究者に本学会員等の専門的知識を有する人を加えて計画を練り、応募してもらうことも可能です。必要があれば学会事務局に相談し、助言者を紹介してもらうのもよい方法だと思います。次回の応募を期待しております。

受賞者研究内容要旨

奨励賞 研究課題

「生殖補助医療受診に対する「抵抗感」の分析-各種ART専門職との意識の相違に注目して-」
Different meanings of resistance and reluctance to use assisted reproductive technology as a means to treat infertility: users’, providers’, and the public’s understandings about ART.

竹田恵子(大阪大学大学院人間科学研究科)

研究内容要旨

近年の女性の意識が、子どもを「授かる」から「つくる」という人為性が先鋭化した意識へと変化しつつあるという報告がある。しかし、生殖補助技術(Assisted Reproductive Technology; ART)の利用に抵抗感を持つ利用者は多く、このような生殖に対する「矛盾した心性」がART利用者の特徴の一つだといえよう。本研究ではART利用者の「矛盾した心性」を解明する手掛かりとして、ART利用の抵抗感に焦点を合わせる。

ARTを生殖に用いる際に生じる抵抗感は、ARTの手技に対するものだけでなく、生殖という、いわば「聖域」に科学技術が介入する事への倫理的な抵抗感も絡まる複雑なものであると考えられる。例えば、排卵を基礎体温等で推測し自然な性交を促すタイミング指導法と、配偶子をART提供者の手で器具を用いて授精させる顕微授精とでは、手技も全く異なるため、抵抗感の質に違いがあることが指摘されている。また、ART提供者(医療専門職)や一般の人々は、ART利用者とは異なった質の抵抗感を持っている可能性も考えられる。そこで、本研究では(1) ART利用者、ART提供者、一般の人々のARTを生殖に用いることに対する意識、(2) ARTが日本社会に普及するに伴って変化していると考えられる妊娠・出産に対する意識を調査し、生殖への技術介入に対する現代日本人の意識を調査する。

実践賞 研究課題

「日本の科学技術政策形成における非営利組織の役割」
Role of non-profit organization on formation of Japanese science and technology policy

榎木英介(特定非営利活動法人サイエンス・コミュニケーション)

研究内容要旨

近年、科学技術政策形成に多方面の意見を取り入れるべきであるという声が聴かれる。なかでも非営利組織(NPO)は「地域社会と密接にした活動や、個々の国民の要望に対応してきめの細かい対応も可能であるなど、新たな科学技術活動の担い手」として、「我が国の科学技術の方向性や社会的活動を評価し、又は、国民参加型の議論を活性化する等の役割を果た」すことが期待されている(平成16年科学技術白書)。しかし、環境やエネルギーなどの一部の政策課題以外に、科学技術政策を扱うNPOの数は極めて少なく、科学技術政策形成に関与しうるNPOはまれである。そこで応募者は本研究において、NPOサイエンス・コミュニケーション(サイコムジャパン)をモデルに、日本の科学技術政策の形成にNPOがどう関与すべきかを探る。まず日本及び諸外国の科学技術政策に関する情報を収集し、整理した上でインターネット等を通じて市民及び科学研究者に提供する。次に政府の政策担当者等を講師に迎え、科学技術政策に関する講演会等を開催する。そして、上記にて入手した情報を分析し、書籍の形で世の中に提示する。このような活動を継続的に行うことにより、科学技術政策に関心のある市民、科学研究者の数を増やし、市民や科学研究者とともに科学技術政策に関する議論を行っていきたい。長期的にはサイコムジャパンを科学技術に関する政策提言が可能なNPOにすることを目標にする。

受賞者成果報告

「日本の科学技術政策形成における非営利組織の役割」
特定非営利活動法人サイエンス・コミュニケーション

榎木英介 春日匠

報告者は、柿内賢信記念賞研究助成金、実践賞研究助成金を受け、国内外の科学技術振興に関与するNPO(非営利組織)や市民団体の動向に関して、文献的検索を中心に調査検討した。

調査の結果、アメリカでは、全米科学振興協会(AAAS)や憂慮する科学者同盟といった、会員数10万人規模のNPOが複数存在しており、科学技術政策に関する情報を収集し、政策提言を行っている実態を知ることができた。欧州においても、サイエンスショップの発達に代表されるように、政府や企業とは独立した市民ベースの科学技術関連NPOが数多く存在しており、その中には科学技術政策提言を行うものも含まれている。

これに対して日本では、2003年に特定非営利活動法人法(NPO法)が改正され、NPO法人の活動分野の中に「科学技術の振興」が取り入れられた。2006年6月末現在、1000法人程度が「科学技術の振興」を活動分野に含めている。市民科学研究室がその代表的な例である。しかし、財政規模および構成メンバーともに欧米に比較しても貧弱であり、科学技術政策のステークホルダーとして認識されていない実態が明らかになった。

しかしながら、科学技術白書で繰り返し述べられているように、科学技術政策に市民や多方面の意見を反映させるために、NPOに対する期待が高まっており、日本においても科学技術政策に意見を述べることができるNPOが複数存在すべきであると考えている。

そこで、報告者は、自らが主宰するNPO法人サイエンス・コミュニケーションを日本における科学技術政策提言NPOのモデルとするために、科学技術政策関連の情報収集を行い、得た情報をインターネットや雑誌にて提供するといった活動を行った。

まず、報告者およびNPO法人サイエンス・コミュニケーションは、インターネットや新聞雑誌等にて科学技術政策情報を広く入手し、それらをメールマガジンおよび月刊誌「バイオニクス」(オーム社)にて広く公開した。メールマガジンは2005年10月末の時点で1642部であったが(2005年10月30日)、2006年10月末には2151部(2006年10月29日)と500部増加した。「バイオニクス」連載では、2006年5月号に掲載した「子どもと歩む研究人生」(榎木英介、林衛執筆)が、男女共同参画学協会連絡会シンポジウム(2006年10月6日)の公式資料として配布されるなど、反響があった。また、同シンポジウムには榎木が講演の講師として招待された。

これと同時に、NPO法人サイエンス・コミュニケーション会員向けの科学政策勉強会を2回、一般に公開した科学政策勉強会を1回開催した。

会員向けの政策勉強会は、2006年4月25日および9月17日に開催した。前者では、濱田真悟氏(NPO法人サイエンス・コミュニケーション理事、科学技術政策研究所)に、科学技術政策決定におけるデルファイ調査等の現状、およびフランスにおける科学技術関連NPOの動向について講演いただいた。後者では、榎木が内外の科学技術NPOの動向に関する調査報告を行い、サイエンス・コミュニケーションの今後の展望について講演した。

一般向けの科学技術政策勉強会は2006年6月11日に東京にて開催した。筑波大学の小林信一教授を講師に向かえ、近年の日本の科学技術政策の動向についてご講演いただいた。二回目の勉強会は一般公開し、20名ほどの一般参加者が来聴された。参加者は政党の政策担当者や科学系の学会の関係者など多岐にわたり、密な議論を行うことができた。

また、科学技術政策情報を収集するために、サイエンス・コミュニケーションの会員に各種の審議会の傍聴を依頼している。また、サイエンス・コミュニケーションの会員や応募者が、他団体の主催するシンポジウム等に参加し、科学技術政策に関する意見交換を行っている。

こうした活動の結果、科学技術政策に関心の深い研究者やマスメディア関係者との緩やかなネットワークができつつある。日本物理学会や男女共同参画学協会連絡会等の関係者とは意見交換を行っている。また、いくつかの民間企業や公的機関から提携の依頼を受けている。榎木は読売新聞の取材に応じ、研究費の不正流用に関して意見を述べた(2006年9月10日掲載)。

そのほか、総合科学技術会議が発表した第3期科学技術基本計画案に対してパブリックコメントを提出したほか、科学技術週間に際してサイエンスカフェを開催し、科学技術振興機構が主催するサイエンスアゴラ2006に協力団体として名を連ねるなど、科学技術振興政策の一端を担う活動も行った。

以上のように、この一年の研究および実践活動において、科学技術政策の情報収集能力を高め、また、団体としての知名度等も向上させることができた。今後の課題としては、より詳細な科学技術政策に関する情報を収集できるようにすることがまず挙げられる。現在では報道等の二次情報の収集が主体であるが、政策担当者や政党関係者との交流などを行い、より一次情報に近い情報を収集したい。現在行政関係者との交流を行っており、近いうちにそれを実現したい。

また、科学技術政策に関する政策提言を行うことを将来的な目標とし、準備を進めていきたいと考えている。そのためには得られた政策情報を読み解き、それに基づき具体的な政策の対案を提出することが必要であり、自らの科学技術政策に関する理解をより高度にしなければならない。報告者は、科学技術政策に関する情報交換や議論を行うために、SNSサイト(ソーシャルネットワークサイト)を立ち上げ、実験的に運用を開始した。現在はサイエンス・コミュニケーションの関係者を中心に、科学技術政策の動向をもとに意見交換を行っている。近々このSNSサイトをより有効活用するために、学会関係者等の科学技術政策に関心のある人たちにも参加を呼びかけ、意見を交換し、科学技術政策に関する理解を深め、政策提言を練り上げていくことを目指したい。

以上研究成果を報告させていただいた。この場を借りて、上記のような実践活動に助成くださった財団法人倶進会および日本科学技術社会論学会に御礼申し上げる。

生殖補助医療受診に対する「抵抗感」の分析-各種ART専門職との意識の相違に注目して-

竹田恵子(大阪大学大学院人間科学研究科)

柿内賢信奨励賞の授与を受け、質問紙調査と生殖補助医療を提供する医療専門職50名にインタビュー調査を実施することができました。現在、質問紙とインタビューデータの分析を行っています。1年間でここまで効率よく調査を実施できたのは、助成金を受賞できたからだと思っています。心より感謝しております。

今後は本調査で得られたデータを生かして、来年度中に研究成果の第一報を公に出せるよう努力します。今のところ、学会発表と専門雑誌への投稿を考えていますが、まだ分析段階のため、どこの学会で発表するのか、論文をどこへ投稿するのか未定です。おそらく所属学会のいずれか(日本社会学会、科学技術社会論学会、日本保健医療社会学会、日本質的心理学会、日本生殖医学会)で学会発表および論文投稿を行うことになると思いますが、今後の分析結果によっては、これ以外の学会や研究会等での研究成果報告もあり得ると考えています。

インタビュー調査により得られたデータの分析は、数ヶ月から半年を要すると考えていますので、具体的な報告は、それ以降になると考えていますが、研究成果は必ず報告いたします。

ご祝辞

第1回授与式によせられた勝見允行理事長(財団法人倶進会)のご祝辞

 財団法人倶進会は一昨年先の理事長であった故柿内賢信氏の業績を記念して、柿内賢信記念賞及び同研究助成金を制定しました。貴学会がこれらの賞の受賞者の選考に当っていただくことをお引き受け下さり感謝いたします。此の度は第一回の受賞者が決まりましたこと嬉しく存じます。また、受賞者の方々には心からお慶び申し上げます。

 さて、この機会を借りまして、簡単に倶進会のことを説明させていただきたく存じます。財団法人倶進会は柿内賢信氏の父であった故柿内三郎東京大学名誉教授が、退官時に私財を寄付して1943年8月に設立したものです。柿内三郎氏は日本の生化学(Biochemistry)の育ての親であり、日本生化学会設立、国際学会誌 Japanese Journal of Biochemistry の刊行など大きな業績を残された方です。柿内三郎氏は退官にあたり、成長期の子女教育の重要性を痛感し、「薫育事業を通じて国家に有用な人材を養成する」ことを目的として倶進会を設立し、初代理事長としてさまざまな活動を開始しました。しかし、残念なことに第二次世界大戦のため活動は中断され、戦後も活動は低迷せざるを得ませんでした。1967年に柿内三郎氏の死去に伴い、東京大学物理学教授であり、理事であった長男の柿内賢信氏(後国際基督教大学教授)が第二代理事長に就任して、1971年8月にそれまで休眠状態にあった財団を再建復活しました。柿内賢信氏は再建にあたり、時代に則した新しい活動の観点を加味することが必要であると考え、再建の辞の中で次のように述べています。

 「近年の技術革新とそれに伴う社会構造の変化とは、近代に出発した研究開発と、またそれの成果の教育を通じての社会への浸透とによるものと考えられます。私どもはそれらが現代の生存にもたらした結果をかえりみるとき、それらが果して人間の生活条件の真の開発といえるかどうかを問い直さざるをえません。いやしくも研究と教育に関与するものは、この問いを自らへの問いとして、研究と教育に対する態度と方法とを再検討する義務を負担しなければならないと考えます。従って私どもは、今や現実の生存の中から立ち現れてくる問いかけを自ら受け止めつつ、年齢・職域、専門をこえて、ひろく志を同じくする方々と倶に、この時代の課題に応えうる学問を現代の英知として再生しなければ成らないと考えます。」

 倶進会が柿内賢信賞を制定し、御学会にその審査を委託しましたのも、御学会の活動がこのような趣旨に沿うものと考えたからです。

 現在、倶進会は1999年から「広く社会に有為な人材の教育・育成に寄与すること」を目的として、それに関わる事業や研究に助成を行っています。

 終わりに、科学技術社会論学会のますますのご発展と受賞者の方々のさらなるご活躍を祈念して私の挨拶といたします。

2005年11月13日

財団法人倶進会
理事長 勝見允行