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投稿日 2010年5月25日

4thEASTS若手ワークショップの開催についての報告

  • 開催日
    2009年12月22日

正会員 塚原東吾

2009年12月4日に、神戸大学・国際文化学部において、国際会議、「第4回東アジア若手STS研究者会議(the 4th East Asian STS Young Scholars Workshop)」を開催した。これは従来、韓国・ソウル大学を中心として行われていたものであり、今回は神戸大学での開催が要請され、神戸STS研究会、東アジアSTS国際誌日本国内編集委員会および日本科学史学会阪神支部会の協力なども得て、開催されたものであり、東アジアの科学技術論・科学史技術に関心のある若手に、国際的な視野を育てるための発表と議論の場を与えるため、(主には2010年夏に東京で開催される4Sに向けての発表の「練習」と、若手のネットワークの形成のため)、東アジアの同僚たちとの多角的な知的交流とを目的としたものである。

東アジアSTSについては、STS学会の役員である中島秀人氏、中村征樹氏などから従来ながらの協力を得ているが、この若手の会では、コメンテータとして槇蒼健氏(医学史)、金凡性氏(地震学史)、瀬戸口明久氏(生物学史)など若手で気鋭の科学史家も神戸に招請し、各々の専門から、若手の研究途上の見解に、議論を挑んでいただくという趣旨のもので活発な議論が行われた。さらにいわゆるSTSの隣接分野との協力という意味では、森田敦夫氏(大阪大学・文化人類学)や、平川秀幸氏(大阪大学・科学コミュニケーション)、田中幹人氏(早稲田大学・科学コミュニケーション)にも、コメンテーター・ディスカッサントとして参加をいただき、科学史を中心としてきたこれまでの東アジアのSTSに対して、さらなる外延の広がりが感じられた。

以下にプログラムを添付するが、のべ12の研究報告が、韓国・台湾および日本の若手研究者・大学院生からなされ、またアメリカ・ケミカルヘリテージのヒュンスッブ・チョイ氏もコメンテータで参加されるなど、ある意味で東アジアの広がりを感じさせるものとなった。ちなみに、発表や議論は全て英語で行われた。

多くの大学院生を率いて参加されたソウル大学のイム・ジョンテ氏およびパイク・ヨンギュン氏には感謝を表したい。

また最後のセッションでは、韓国の宋相庸氏・台湾の郭文華氏、そして日本の中島秀人氏によって、東アジアのSTSのこれまでとこれからについて、鼎談の形で、これまでのさまざまな経験と今後の学問的展望についての議論が行われた。

中でも宋相庸氏は、韓国の民主化運動と学問の在り方について、厳しい弾圧のなかで展開してきた自らの学問的な経験について熱く語られた。そこでは宋氏の話に聞き入る若手との間に、重要な世代間継承の契機が生まれたと、僭越ながら主宰者は考えており、本会議の成果は大きかったと自負するところである。

この最終セッションでは、宋・郭・中島といった東アジアSTS第一世代に対しての若手からのレスポンスの一環として、京都大学大学院生の標葉隆馬氏からのプロジェクトプロポーザルのかたちで、東アジアのSTSの新たな協力関係の構築のための企画が提案された。ここでは同氏によって、国際比較研究(いわゆるサイエント・メトリックスの手法でのジャーナル共同体の比較研究)について、同氏からのプロトタイプが示され、韓国・台湾をはじめとする東アジアの若手研究者への呼びかけがなされた。(なお後日談であるが、同氏をはじめとする本会議への参加者は、この会議が契機となり、2010年3月に韓国・ソウルで開催されたワークショップに参加をすることになった。さらに同氏の発表に、江間ありさ氏(東大―コーネル大)および塚原のコメントと修正を加えた共著として、ドイツ・シュプリンガー社から刊行されている『東アジアSTS国際誌(East Asian Science, Technology and Society: an International Journal)』に、その梗概が掲載されることが決定した。書誌は以下のとおりである。Ryuma Shineha, Arisa Ema, Togo Tsukahara, “Proposal for Comparative Studies on East Asia STS”, in East Asian Science, Technology and Society: anInternational Journal, 2010, vol.4, no.1, in print.

以上、本国際会議は、若手を主な対象としたものながら、さまざまな意味で大きな成果があった。なによりも研究途上の若手の発表の内容とそれに対する議論によって、若手の育成につながったことと信じたいが、それだけではなく、発表者をめぐる学問状況について、STSや科学史のみならず、活発な隣接分野など、多くの分野間の交流による知的な活性化、若返りなどが試みられていたことは、注目すべき点として報告しておきたい。なおこの会議ではのべ89名の参加者があった。

Morning session: Food, Medicine and Disease in East Asia

Chair-group: Shin Chang-Geon(Tokyo University of Science), Dr. Hyungsub Choi (Chemical Heritage Foundation, USA.)

●Nobuko Ueno (Tokyo Univ. D2) :Framing analysis of stakeholders in science controversies:Case study of controversy of fish intake on scientific literatures in US

●Chin-Chih An (student doctor in the sociology department of the Nation Taiwan University.): Food + Medicine、From Four Agent Soup to Functional Foods: Biographies of Chinese Herbs in Contemporary Taiwan (1990-2008)”

●Leem, Soyeon (PhD student at SNU): STS of a Plastic Surgery Clinic in South Korea

●Higashijima Jin (Graduate School of Biostudies, Kyoto University): Ethical implications of research on the genetic aspects of autism spectrum disorders: A qualitative study of parental opinions in Japan

Afternoon session (1) Environmental Problems and Citizen:

Chair-group: Akihisa Setoguchi (Osaka City University), Kim Boumsoung (Hiroshima Institute of Technology)

●Sun, You-jeong (PhD student at Chonbuk National University): History of Reforestation Project in the 1970s South Korea

●Nozawa Satoshi (Tokyo Inst. of Technology): Environment, Global Warming: Potential for Energy Policy Cooperation in East Asia

●Lee, Jung (PhD student at SNU): STS of Environmental Hormone in South Korea

●Jang, Hawon (MA student at SNU): STS of Environmental Disputes in Contemporary South Korea

Afternoon session (2) STS in East Asia: past and present.

Chair-group: Masaki Nakamura (Osaka University), Hideyuki Hirakawa (Osaka University), Mikihito TANAKA (Waseda University)

●Shin, Ji-eun (MA studenst at SNU): STS of a Korean Female Astronaut

●Yu Nishigaki (Osaka Univ): On Mongolian City Planning.

●Takuya Miyagawa (PhD student at SNU) : History of Meteorology in the Colonial Period

●Chun-fang Chang (National Tsing-hua University, TAIWAN): Turning Challenges into Changes: Megumi Arai and His Anti-Typhoid Research in Colonial Taiwan

Plenary session: proposal of STSNJ’s initiative to “understanding problems and trend in East Asian STS”

Chair: Togo Tsukahara (Kobe University)

Commentators: Song Sang-yong, Kuo Wen-hua, Hideto Nakajima.

●Ryuma Shineha (Kyoto Univ): Representative of STSNJ. on Scient metrix of Japanese STS.


科学技術社会論学会ニュースレター2010年度1号(2010年5月25日発行)より転載