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投稿日 2009年12月11日

アジア太平洋地域における研究協力体制の構築に向けて

国際基督教大学(科学技術社会論学会会員)/APSTS International Advisory Board
山口富子

近年の日本のSTS研究の蓄積には目を見張るものがあるが、一方で、研究成果が国外に十分に発信されていないのではないか。オーストラリア,ニュージーランド,シンガポールなど,いわゆるアジア太平洋地域にある国々の研究者も同様の悩みを抱えているようである。より積極的に研究成果を外に発信してゆくために、アジア太平洋地域に点在する研究者がネットワークを構築してはどうかという事で、Asia Pacific ‘Science, Technology and Society’ Network (APSTS Network)の活動が2008年から始まった。本稿では、JSSTSの学会員の皆様に、APSTS Networkの活動を紹介したいと思う。

APSTS Networkの構想は、2008年、ロッテルダムで開催された国際科学技術社会論学会年次大会で、筆者が以前から面識があったオーストラリア、ニュージーランドの研究者らと偶然、再開した時に持ち上がった。話をする中で、アジア太平洋地域のSTS研究者が直接交流する機会がもっと増えれば、なにか面白い試みができるのではないかというアイデアが生まれた。同年の12月Victoria University of Wellington (ニュージーランド、ウェリントン)で,2日間のワークショップを実施する運びとなり、その1年後には、Griffith University(オーストラリア,ブリスベーン)にて、Asia-Pacific Science, Technology and Society Network Conference 2009: Our Lands, Our Waters, Our Peopleを開催した(詳細は、http://www.esr.cri.nz/AsiaPacificSTSNetwork)。2008年のワークショップは、20数件ほどの研究発表に留まったが、ブリスベーンの会議では、その3倍もの数の研究発表が有った。域内におけるSTS研究への関心の高まりが伺える。

わずか2年の間に、APSTSの活動はその裾野を広げつつあるが、これまでのところ、組織化はぜず、研究者のゆるやかなネットワークという形で活動を展開してきている。主だった活動としては、域内のSTS研究者のデータベースを構築するという活動と、出版物を通して研究成果を外に発信するという活動が挙げられる。データベース作成に関わる作業は、APSTS NetworkのConvener である Karen Cronin氏が在籍するInstitute of Environmental Science & Research (ESR)で行っており、研究者のデータベースを随時更新している。データベースは、現在非公開のため、簡便にデータを検索できないような状況ではあるが、これまでESRの担当者が介在する形で、域内の研究者の交流を手助けしてきている。今後、ニュージーランド国内の個人情報保護法の問題がクリアされれば、データベースの利便性が高まると思われる。このように、データベース運用の面でまだまだ改善の余地はあるが、それを活用し筆者の連絡先を入手したというオーストラリアの研究者から、連絡をもらったという経験から、こうした媒体があれば域内の研究者がつながってゆけるのだという確信を持った。関心のある方は、APSTS事務局Christine.Jenca@esr.cri.nzへ、ご連絡頂き、データベースに名前と連絡先のご登録を頂きたい。

2008年のワークショップの成果は、現在EASTS (East Asian Science, Technology and Society: An International Journal) の学会誌の特別号(Engaging Publics/Engaging Science)として編纂しつつあり、またブリスベーンの会議の成果も学術的な出版物として取りまとめをする方向性で動いている。このような活動を通し、アジア太平洋地域から外に向けて研究成果を発信できるような道付けを作ってゆければと思う。

JSSTSの会員の皆様にもこうした活動をご理解頂くとともに、ネットワークにご参加頂ければと思う。アジア太平洋地域のSTS研究者のネットワークの裾野が広がってゆく事を切に願う。


科学技術社会論学会ニュースレター2009年度4号(2009年12月11日発行)より転載