伊藤憲二(みすず書房 2023/7/18)
多様な側面を持つ仁科芳雄の全体像を、本人はもちろん、さまざまな関係者の実践(思想よりも行為)とそれを取り巻く社会環境についての幅広く丁寧な資料調査によって描き出そうとした労作である。序章や各章の導入部では、本書の道標となる科学技術史・科学技術社会論の先行研究が多数紹介されており、それらも多くの読者にとって貴重な情報になるだろう。2023–24年は、本書の出版も含めて、物理学史が近年になく社会の注目を集めた年となった。本書は、そこでの主要な関心の一つであった核開発をめぐる研究者のあり方についても、とくに日本の事例を歴史的事実に基づいて確実に論じていくための新たな必読書となったと言える。
【夏目賢一】