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投稿日 2009年11月1日

2009年度 科学技術社会論・柿内賢信記念賞 選考結果について

選考委員(五十音順)、*委員長

黒田光太郎(名古屋大学)
*白楽ロックビル(お茶の水女子大学)
平田光司(総合研究大学院大学)
松原克志(常磐大学)
桃木暁子(京都精華大学)

科学技術社会論学会では、財団法人倶進会の厚志をいただき、2005年度から「科学技術社会論・柿内賢信記念賞」(「かきうち よしのぶ」と読む)を設け、会員・非会員を問わず公募しています。5回目となる今年度は、8件(学会賞1件、奨励賞5件、実践賞2件)の応募がありました。

受賞者の選考に当たり、当学会は選考委員会を設置し、選考委員会では公募終了直後から1ヶ月かけて、慎重に審議を重ね、下記のとおり学会賞1件、奨励賞2件、実践賞1件を授与することに決定しました。

選考結果

学会賞:

  • 杉山 滋郎「「討論型世論調査」を科学技術への市民参加に活かす可能性を探る」

研究助成金 50万円

奨励賞:

  • 加藤 直子「科学研究機関一般公開日の来場者調査による文化的再生産モデルの検討」
  • 鈴木 貴之「ポピュラー脳科学の実態の分析と脳科学リテラシーの可能性にかんする研究」

研究助成金 各30万円

実践賞:

  • 杉井 重紀「世界で活躍する理系人材育成の方法論」

研究助成金 40万円

<研究内容要旨は別紙参照>

【選考過程】

選考に当たって、選考委員5人は各人の基準で選考しましたが、選考委員の専門、経歴、年齢、性別、地域など、多様であり、結果的にその価値基準の多様さが反映された審査であったといえます。各候補については、応募とは異なる部門における授賞の可能性も考慮しましたが、いずれも応募部門での受賞となりました。

選考委員内の制度化された「選考基準」はありませんが、以下のことは議論しました。

  1. 「応募者と利害関係が強く、選考委員自身あるいは他人から公正性が欠けると憶測されそう」な場合、その選考委員の評価を除外する。
  2. 同じ人が2つ以上同時に受賞することはしない。
  3. 同じ研究室から2人以上同時に受賞することはしない。
  4. 同じ人・研究室から2年連続で受賞することはしない。
  5. 昨年度指摘された以下の配慮点も選考委員に伝えた。「 平均して中程度に支持されている人よりは、一部でも高く評価する委員がいる候補を尊重すべき」。「科学技術社会論としての意義」。「方法論が弱い、というのは全体に言えることだ。そこが弱くないのは、むしろ、既成の「パラダイム」の中で行う仕事である、ということで、傾向として面白みは少なくなる」。

実際に、1のケースでは、平田選考委員から申し出があり、奨励賞の審査から外れていただきました。2~4のケースはありませんでした。

【選評】

学会賞:
杉山 滋郎「「討論型世論調査」を科学技術への市民参加に活かす可能性を探る」

杉山氏は科学史の研究者であるとともに、2005年度から北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニットの代表を務められてきました。この間に、多様な科学技術コミュニケーターの養成ならびに科学技術コミュニケーション教育の体系化に尽力し、科学技術社会論に大きな寄与をしてきました。とりわけ、『科学技術コニュニケーション』の創刊、「プロジェクト実習」の教育プログラムへの導入において成果をあげています。また、ナノテクノロジーをテーマにした「ミニ・コンセンサス会議」の実行委員長や北海道主催「遺伝子作物の栽培について道民が考える「コンセンサス会議」」の実行委員長、北海道食の安全・安心委員会委員として、「科学技術への市民参加」を促進する活動にも従事して来ました。これらの活動の経験をとおして、政策決定とコンセンサス会議を結びつける際の難点を克服するひとつの途として、本研究計画として「討論型世論調査」を科学技術への市民参加に活かす可能性を探ることが提案されたと思われます。「討論型世論調査」を科学技術と社会との境界面で議論を醸しているテーマにおいて実施し、その可能性を実践的および理論的な面から検討することは、科学技術社会論の新たな発展のきっかけとなるとの認識から「学会賞」に値すると判断しました。

2009年11月14日の授与式にて。左から、学会賞を受賞した杉山滋郎氏、中島秀人学会長、調麻佐志事務局長。〈写真提供:北海道大学CoSTEP〉
奨励賞:
加藤 直子「科学研究機関一般公開日の来場者調査による文化的再生産モデルの検討」

加藤氏の研究は自然科学系研究機関のアウトリーチ活動について、特に一般公開というイベントにおいて個々の来場者に注目し、来場者の興味、満足度だけでなく、どのような人がくるのか、また、来ないのかを分析し、日本における科学文化の社会的背景を探るものです。このために、ブルデューの文化的資本の概念を援用し、来場者の文化資本的背景に注目して「科学・技術的資本」と「文学・芸術的資本」それぞれの資本保有率と科学的消費との関連を探ります。科学コミュニケーションにおける議論では市民の多様性についての認識はあるものの、科学コミュニケーションを通じて市民の多様性を研究するという方向性はほとんど無いと思われます。本研究はまさにこの方向への第一歩を示すものであり、科学を文化的活動の一環と位置づけ、社会における科学文化のありかたを組織的にさぐる点に新規性があります。科学文化の視点から科学社会学を構築し、また、科学コミュニケーションの理論的深化を目指すものとして期待されます。

奨励賞:
鈴木 貴之「ポピュラー脳科学の実態の分析と脳科学リテラシーの可能性にかんする研究」

鈴木氏の研究は、脳科学が急速に発展し、研究成果を一般向けに紹介する言説が書籍はもとより、テレビ、雑誌などのメディアにあふれ、「脳科学ブーム」とも言える状況で、社会は脳に関する言説をどう扱えばよいかを探ろうとするものです。具体的にはポピュラー脳科学の実態を分析し、それに対処するうえでの一般市民に必要となる科学リテラシーを明らかにしようとしています。まずポピュラー脳科学の類型、特徴・問題点を明らかにするため一般向けの脳科学関連書籍の収集と分析、先行研究の分析をしようとしています。第二にポピュラー脳科学に含まれる不正確な情報に一般市民が影響されるのを防止するための、脳科学リテラシーともいうべき、能力を身につける方法を検討しようしています。このため専門家である脳科学者やサイエンスライター、科学コミュニケーターの役割を分析しようとしています。本研究で対象となる脳科学は先端研究といえます。したがって先端研究であるがゆえに想定される不確実性が脳科学には内包されているといえます。本研究では社会的ブームによって一般社会にその不確実性に配慮しないまま脳科学の知見が普及することの問題を鮮明にし、解決策を提案しようとするものとして評価され、最終的に受賞が決定されました。

実践賞:
杉井 重紀「世界で活躍する理系人材育成の方法論」

杉井氏は、米国にある医学・生物学分野の研究機関に在籍する研究者であり、「科学技術を社会に浸透させる上で鍵となるのは、人材であり、それを育成する教育システムであるが、現在、日本の大学院の教育システムは他の先進国に比べて未熟である。」という認識の下に、日本の理工学系大学院の新たな教育システムの構築に貢献すべく、日米の理工学系大学院の教育システムおよび卒業生の就職先について、実体験に基づいた調査によって比較研究を行うことを提案しています。

具体的には、「実体験に基づく日本と米国の理科系大学院教育システムの比較」「「なぜアメリカの院を選んだか」ケーススタディー」「注目される研究分野・研究者と求められる人材」の調査」「海外の科学教育事情に精通し、世界で活躍する人材へのヒアリング・インタビュー」という4項目について、米国の大学院の留学生および卒業生の体験を元にした調査を行ない、その結果を分析・考察すること、その研究結果をインターネットや書籍を通じて一般公開することが計画されています。

日本でも、「科学技術基本計画」などに人材育成の重要性が強調されてはいますが、具体的なビジョンと方策が示されているとはいえない現状で、このような現場に基づいた研究の成果が広く一般公開されることが、何らかの風穴を明けることに通じるのではないでしょうか。

【選考を振り返って】

「科学技術社会論・柿内賢信記念賞」は、2005年度から開始しましたが、今年度(2009年度)の応募数は8件で、2008年度の17件から大きく減少しました。この原因を考えてみるに、本賞の魅力・必要性が低下したためではなく、広報が8月中旬開始で応募締め切りが8月末という短期間であったことが、大きな原因だと思われます。今後、余裕を持った広報活動をしていきたいと思います。

なお、2005年度に制定した本賞の細則を、2009年春にいくつか改訂しました。大きな点は以下の2点です。

  1. 従来の名称「柿内賢信記念賞研究助成金」から「科学技術社会論・柿内賢信記念賞」と改名した。科学技術社会論とは無関係と思われる応募があり、名称から賞の内容を推察できるようにした。
  2. 従来の名称「柿内賢信記念賞研究助成金」の「研究助成金」を削除した。従来の「賞」と「研究助成」を合わせた趣旨の曖昧な点を、基本的には「記念賞」という「賞」に変え、「研究助成金」は「賞」に付随したものと位置づけた。

最後に、応募数が少数であったとはいえ、内容はどれも素晴らしい。来年度は、同じように素晴らしく、かつ多数の応募があることを期待しています。

【統計データ】

受賞者研究計画要旨

学会賞:

杉山 滋郎「「討論型世論調査」を科学技術への市民参加に活かす可能性を探る」

科学技術と社会の境界面に生ずるさまざまな課題の解決において、「科学技術への市民参加」が不可欠である。そして、そうした市民参加を実現するための手法として、コンセンサス会議や対話フォーラムなどが開発され、また実践されてきた。

しかし、コンセンサス会議など討議性を重視する手法には、それ固有の難点があると感じてきた。それは、次のようなことがらである。

  1. 運営に対する労力・費用が大きく、実際の政策に結びつける形で実施するうえでの障害になりがちである
  2. 参加する市民の人数がたかだか十数名であることも、政策担当者が現実の政策に活かすときの抵抗感を生み出している
  3. 公募制をとるとはいえ、現実には「極めて問題関心の高い市民」が参集することになり、代表性(一般的な国民の意見を反映するという点)に難がある

こうした点を克服する一つの途として、James Fishkinが1991年に提唱した、Deliberative Polling(以下、DPと略記)という手法が、注目に価すると思われる。DPでは、母集団を統計的に代表するように無作為抽出した市民 数百人に対して行なうので、代表性がコンセンサス会議などに比べ、はるかに大きくなる。またDOPに関するこれまでの調査では、討議性が高いことも確認されている。

DOPのこうした特徴を考えると、これまで主として政治学の文脈で語られてきたDOPを、科学技術への市民参加を促進する一手法として積極的に考察してみる価値があると思われる。

そこで本研究では、DOPを、科学技術と社会との境界面で論議を醸しているテーマに関して実施してみることにより、科学技術への市民参加を促進する一手法としてDOPを活用する可能性について、実践的な面から、および理論的な面から検討する。今年2009年に実施したWorld Wide Views on Climate Changeでの経験も有効に活用しつつ、参加市民の選び方、情報提供資料の作成、討議の進め方、”メディア”との連携、具体的政策への反映法などについて検討する。

準備・実施・評価という3つのフェーズを完遂するのに3年間ほどの期間を考えているが、準備のフェーズ、とくに情報提供資料の作成にこのたびの助成金を使用させていただき、その成果を本学会で報告するなどして、DPの可能性や限界を関係者で共有できるようにしたい。

奨励賞:

加藤 直子「科学研究機関一般公開日の来場者調査による文化的再生産モデルの検討」

本研究は、自然科学分野の科学研究所の一般公開日に来場する人々に対し、属性と科学的および文化的消費行動の関連に関して質問紙調査を行い、来場者の動向や嗜好を分析し、科学コミュニケーションに関する理解を促進することを目的とする。

文部科学省の科学技術基本計画を受けて、現在多くの科学研究所は、毎年一般公開日を設定し、来場者に対する活発な情報発信を行っている。国立の自然科学研究所の一般公開日には、数千名の来場者を迎える研究所も多い。広報機能の充実や活性化に力を入れている科学研究所も確実に増加しており、科学者の説明責任とリスク管理に関して一定の効果を発揮しているといえるだろう。しかしながら、科学における「双方向のコミュニケーションの充実」という面においては、比較的未整備な状態にあるのではないだろうか。研究所からの発信のみならず、逆方向、すなわち国民からのフィードバックを効果的に得るためには、一般公開や公開講座に参加する国民のニーズを探り、その動向や嗜好を分析し、改善点を抽出するためのCS(Customer Satisfaction)分析といったマーケティング的な視点に基づいた調査が必要である。さらに、科学コミュニケーション研究の今後の課題として、発信された科学情報の受け手、すなわち科学研究所の一般公開日に来場する人はどのような人なのか、また逆にどんな人が来場しないのかを明確に知ることが重要である。このことは、学校教育における科学教育との連携を図る上でも極めて重要であるといえる。

本研究により、科学をより広い文化的活動の中に位置づけて理解を深めることを可能にするといえる。

鈴木 貴之「ポピュラー脳科学の実態の分析と脳科学リテラシーの可能性にかんする研究」

脳画像技術の進展を契機として、近年、脳科学は急速に発展している。その研究対象は、知覚や運動だけでなく、推論や意思決定といった高次の認知機能にまで広がっている。研究成果を紹介する一般向けの著作も数多く出版され、テレビや雑誌などのメディアにも、脳にかんする言説があふれ、「脳科学ブーム」とも言うべき状況が生まれている。

脳科学は人間を研究対象とするものであるため、脳にかんする言説は、大きな社会的インパクトを持つ。現在、社会に流通する脳科学的な言説のなかには、ゲーム脳理論のように、教育政策に大きな影響を与えるものや、脳トレゲームのように、巨大なビジネスと結びついているものもある。しかし、これらの言説のなかには、科学的な信頼性に欠けるものも少なくない。では、多様な脳にかんする言説を、社会はどのように扱えばよいのだろうか。

本研究は、このような状況をふまえ、ポピュラー脳科学の実態を分析し、それに対処するうえで一般市民に必要となる科学リテラシーとは何かを明らかにすることを目的とする。具体的には、以下の2つの問題を考察する。①ポピュラー脳科学の実態の分析:一般向けの脳科学関連書籍の収集および分析、先行研究の分析などを通じて、ポピュラー脳科学の類型や、それぞれの特徴・問題点を明らかにする。とくに、ポピュラー脳科学に特有なありかたや、日本のポピュラー脳科学に特有なあり方に注目する。②脳科学リテラシーを向上させる方法の考察:ポピュラー脳科学に含まれる不正確な情報に影響されるのを防ぐためには、一般市民はどのような点に注意する必要があるのかを明らかにする。また、各種の啓発プロジェクトの分析などを手がかりとして、社会がポピュラー脳科学に対処するうえで、専門家である脳科学者や、科学的な情報の媒介者であるサイエンスライターや科学コミュニケーターがどのような役割を果たすことができるのかを考察する。

実践賞:

杉井 重紀「世界で活躍する理系人材育成の方法論」

科学技術を社会に浸透させる上で最も鍵を握るのは、人材であり、それを育成する教育システムである。しかし現在、日本国内のほとんどの大学院の教育カリキュラムが、狭い領域での研究課題を学生に課すことを中心とするのみであり、他先進国に比べ未熟であると言わざるを得ない。また、国内大学院生およびポスドクの大多数が、似たような研究職に就職を希望するのに対し、米国では、 政治家、政府官僚、企業経営者、メディア関係者、司法専門家など、就職先が多岐にわたっており、これらの違いが一般社会の科学への理解度に如実に反映されていると考えられる。日米の大学院システムと就職口の違いは、米国で公表されているデータを元に、ある程度計り知ることはできるが、実際に留学している学生・修了者から実体験を元にした調査がなされたことは皆無に等しい。2000年にメーリングリストを発端にして発足した「カガクシャネット」は、現役の理系大学院留学生60名以上を含む200人以上のメンバーからなり、これまでオンライン媒体、紙の媒体、セミナー活動等を通じて、理学・工学系の大学院留学生活の実情や、海外の科学教育および最先端研究を、分かりやすく一般社会に紹介する試みを行ってきた。本研究では、実体験に基づく日米の理系大学院教育システムの比較、「なぜアメリカの院を選んだか」のケーススタディー、「注目される研究分野・研究者と求められる人材」の調査、そして海外の科学教育事情に精通し世界で活躍する人材へのヒアリング・インタビュー、の4項目を柱とする。研究結果は、 メールマガジンおよびウェブサイトでの発行、オンライン動画メディア 書籍の出版、国内での講演活動により広く一般公開される。それにより、科学技術立国にふさわしい人材を育成するための教育システムの構築を、支援できればと考える。

受賞者成果報告

実践賞
課題名:「世界で活躍する理系人材育成の方法論」

杉井 重紀
カガクシャ・ネット代表、ソーク研究所上級研究員

1)成果報告

本研究では、インターネットでの活動を軸として、様々な形での実践的活動を行うことができました。まず、科学技術社会論学会にご後援いただき、2009年12月13日に「アメリカの理系大学院留学セミナーおよび理系著名人公開インタビュー」のイベントを、東京農工大にてカガクシャ・ネットが主催しました。日曜日にも関わらず、多くの来場者を集めました。まず留学セミナーでは、若手留学経験者の計6名が講演とパネルディスカッションを行いました。それから公開インタビューとして、東京大学農学生命科学研究科教授の東原和成博士と科学技術振興機構(JST)理事長の北澤宏一博士をお呼びし、大学院留学経験談や世界的に活躍する秘訣、若い学生へのメッセージ等をお話いただきました。この模様は、YouTubeのカガクシャネット・チャンネルに収められています。

このお二人に加えて、本研究では留学経験者で世界的に知られる方々、計10人にインタビューを行いました。例えば、この中の一人にノーベル物理学賞受賞者の小柴昌俊博士がおり、留学の経緯、18ヶ月で米国博士号を取得した秘訣、現在の科学を社会に還元するご活動やこれから面白そうな分野など、貴重なお話をお聞きすることができました。小柴先生のお話を含めて、これらのインタビュー全文は、カガクシャ・ネットのホームページにも掲載されています。また全てのインタビューは、2010年に出版した「理系大学院留学 アメリカで実現する研究者への道」(カガクシャネット著、アルク社発行)のパートIIIにおさめられました。

またカガクシャネットが2007年より発行しているメールマガジンでは、「なぜアメリカの院を選んだか」のエッセイを、計23人の大学院留学経験者にエッセイという形で執筆していただき、それに基づいてケーススタディーを行いました。この結果、「授業料免除と生活費をもらえるから」がトップ、次いで「英語力を高めたかった」「幅広い学際領域を選び専攻・研究分野を変えたかった」「基礎から学べて充実したコースワーク」と続きました。また同時に、「アメリカの院に行って良かったこと」と「日本の大学院に行った方が良いこと」についても、調査を行いました。

さらに本研究の要のうちの2つであった「実体験に基づく日米の理系大学院教育システムの比較」と、「注目される研究分野・研究者と求められる人材」調査においても、多数の執筆者と協力者に恵まれ、上記書籍のパートI 第3章(日米比較)と第2章(注目分野と人材)に掲載されています。またこれらの研究記事の大部分はメールマガジンでも配信がなされ、カガクシャネットのホームページにて、バックナンバーが閲覧可能です。

2010年度はこれまでの研究成果をさらに実践に役立てようと、「第一回博士キャリアアップシンポジウム グローバル時代に博士号を生かす方法 就職難の時代だからこそチャンスを勝ち取る!」イベントを12月21日に、東京大学農学部を会場にして主催しました。前代未聞と言われている日本での博士号取得者の就職難が取り沙汰されている中、後ろ向きの議論をするのでなく、博士の一人一人が意識を変えて視野を広げ、グローバルな視点で世界を見ていけるよう、単なる就職活動のノウハウではなく、将来までずっと役立つ「マインド」を養うことに特化したセミナーを企画しました。日本の科学技術のトップを担う先生方(黒川清博士、北澤宏一博士)の基調講演から、キャリアプラニングに詳しい専門家、そして各方面に就職して間もない若手たちによる体験談まで、多岐にわたる構成でした。当日はUstreamによるオンライン生中継を行い、この模様はUstreamのカガクシャネット・チャンネルでアーカイブとして視聴することができます。

これらの媒体を通じて、本研究が広く一般公開されることにより、科学技術立国にふさわしい人材を育成するための材料として、お役に立てれば幸いに思います。

最後に、海外在住の身でありながら、柿内賢信記念賞という名誉ある賞をいただき、改めて心より感謝申し上げます。

2)会計報告

添付書類(杉井重紀_2009年度実践賞_会計報告.doc)をご参照ください。

3)研究経過報告

本研究では、インターネットでの活動を軸として、様々な形での実践的活動を行うことができました。まず、科学技術社会論学会にご後援いただき、2009年12月13日に「アメリカの理系大学院留学セミナーおよび理系著名人公開インタビュー」のイベントを、東京農工大にてカガクシャ・ネットが主催しました。日曜日にも関わらず、多くの来場者を集めました。まず留学セミナーでは、若手留学経験者の計6名が講演とパネルディスカッションを行いました。それから公開インタビューとして、東京大学農学生命科学研究科教授の東原和成博士と科学技術振興機構(JST)理事長の北澤宏一博士をお呼びし、大学院留学経験談や世界的に活躍する秘訣、若い学生へのメッセージ等をお話いただきました。以下に概要が記されています。

http://kagakusha.net/event.htm

このお二人に加えて、本研究では留学経験者で世界的に知られる方々、計10人にインタビューを行いました。例えば、この中の一人にノーベル物理学賞受賞者の小柴昌俊博士がおり、留学の経緯、18ヶ月で米国博士号を取得した秘訣、現在の科学を社会に還元するご活動やこれから面白そうな分野など、貴重なお話をお聞きすることができました。小柴先生のお話を含めて、これらのインタビュー全文は、カガクシャ・ネットのホームページにも掲載されています。

http://kagakusha.net/alc/

また全てのインタビューは、2010年に出版した「理系大学院留学 アメリカで実現する研究者への道」(カガクシャネット著、アルク社発行)のパートIIIにおさめられました。(添付PDF書類:アルク本パート3_インタビュー.pdf)

またカガクシャネットが2007年より発行しているメールマガジンでは、「なぜアメリカの院を選んだか」のエッセイを、計23人の大学院留学経験者にエッセイという形で執筆していただき、それに基づいてケーススタディーを行いました。

http://www.mag2.com/m/0000220966.html

この結果、「授業料免除と生活費をもらえるから」がトップ、次いで「英語力を高めたかった」「幅広い学際領域を選び専攻・研究分野を変えたかった」「基礎から学べて充実したコースワーク」と続きました。また同時に、「アメリカの院に行って良かったこと」と「日本の大学院に行った方が良いこと」についても、調査を行いました。結果は添付のファイルにまとめられ、上述のイベントを含む留学セミナー等で発表されました。(添付PDF書類: WhyUSgradSchool_KagakushaNet.pdf)

さらに本研究の要のうちの2つであった「実体験に基づく日米の理系大学院教育システムの比較」と、「注目される研究分野・研究者と求められる人材」調査においても、多数の執筆者と協力者に恵まれ、上記書籍のパートI 第3章(日米比較)と第2章(注目分野と人材)に掲載されております。(添付書類:アルク本ハート1_第2&3章.pdf)

またこれらの研究記事の大部分はメールマガジンでも配信がなされ、カガクシャネットのホームページにて、無料登録によりバックナンバーが閲覧可能です。

http://kagakusha.net/modules/weblog/
(閲覧にユーザ名 user、パスワード sandiego をお使いください)

2010年度はこれまでの研究成果をさらに実践に役立てようと、「第一回博士キャリアアップシンポジウム グローバル時代に博士号を生かす方法 就職難の時代だからこそチャンスを勝ち取る!」イベントを12月21日に、東京大学農学部を会場にして主催しました。前代未聞と言われている日本での博士号取得者の就職難が取り沙汰されている中、後ろ向きの議論をするのでなく、博士の一人一人が意識を変えて視野を広げ、グローバルな視点で世界を見ていけるよう、単なる就職活動のノウハウではなく、将来までずっと役立つ「マインド」を養うことに特化したセミナーを企画しました。日本の科学技術のトップを担う先生方(黒川清博士、北澤宏一博士)の基調講演から、キャリアプラニングに詳しい専門家、そして各方面に就職して間もない若手たちによる体験談まで、多岐にわたる構成でした。

http://kagakusha.net/symposium_2010.htm

当イベントは、Twitterやブログ等で話題となり、基調講演を行った元内閣顧問の黒川博士は以下のような感想をお持ちになりました。

http://www.kiyoshikurokawa.com/jp/2010/12/内向きの日本の若手研究者へ若手研究者が立ち上がる.html

また当日はUstreamによるオンライン生中継を行い、この模様はUstreamのカガクシャネット・チャンネルでアーカイブとして視聴することができます。

http://www.ustream.tv/channel/HakaseCareer

これらの媒体を通じて、本研究が広く一般公開されることにより、科学技術立国にふさわしい人材を育成するための材料として、お役に立てれば幸いに思います。

最後に、海外在住の身でありながら、柿内賢信記念賞という名誉ある賞をいただき、改めて心より感謝申し上げます。

奨励賞
課題名:「科学研究機関一般公開日の来場者調査による文化的再生産モデルの検討」

加藤直子

総合研究大学院大学・先導科学研究科

このたびは、柿内賢信記念賞奨励賞をいただき、心から感謝申し上げます。以下、成果についてご報告申し上げます。

成果概要

2009年10月に、公的科学研究機関の一般公開日の来場者に対して調査票を用いた定量的な調査を実施した。統計的分析を行い、研究をまとめ、学会発表をした。また、論文を執筆し、公刊された。

学会発表

本研究内容について、2010年8月に行われた第35回Society for Social Studies of Science(4S)年次大会および第9回科学技術社会論学会で口頭発表を行った。

Kato-Nitta, N.“Understanding the Public with the Concept of Cultural Capital through a Scientific Institute’s Outreach Event” The 35th Society for Social Studies of Science Annual Meeting, Tokyo University Komaba Campus, Tokyo, Japan,Aug.25-29, 2010.

加藤直子「科学研究機関のアウトリーチ活動を用いた来場者の計量分析:文化資本と科学の消費行動の関連を中心に」第9回科学技術社会論学会年次大会、2010年8月 

論文発表

本研究内容についてPublic Understanding of Science誌に投稿し、2011年7月に公刊された。

Kato-Nitta, N. “The Influence of Cultural Capital on Consumption of Scientific Culture: a survey of visitors to an open house event at a public scientific research institution” Public Understanding of Science, July 26, 2011, doi:10.1177/0963662511409509.