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投稿日 2022年11月15日

2022年度学会シンポジウム開催報告

  • 開催日
    2022年9月18日

「科学・技術と民主主義」

2022 年度学会シンポジウム実行委員長
直江 清隆

2022 年 9 月 18 日に、2022 年度科学技術社会論学会シンポジウム「科学・技術と民主主義」をオンラインで開催しました。政策決定において専門知と民主主義をどのように機能させていくべきかという問題は、COVID 19 対策のさまざまな局面でもあらためて明らかになったように科学技術社会論の最重要テーマの一つになっています。これまでにないリスクや災禍に直面しての試行錯誤の中で、さまざまな主体の間でどのようにコミュニケーションをとり、合意形成し、政策決定するのかなどのことが、喫緊の問題として問われてきたのです。ちょうど 2022 年 1 月にこのテーマの重要文献の一つである『民主主義が科学を必要とする理由』(コリンズ&エヴァンズ,法政大学出版局)が翻訳出版されたことから、本書を議論の手がかりにして本シンポジウムを企画しました。本シンポジウムでは、専門知と民主主義について多様な視点から論議するべく、技術哲学、政治学、科学コミュニケーションのそれぞれの観点から提題いただき、2022 年の日本の状況からの現在的な議論の構築を目指しました。一般参加者の現地参加は残念ながら実現できませんでしたが、応用哲学会、科学基礎論学会、研究・イノベーション学会、日本科学史学会からの後援をいただき、非学会員を含めて約 140 名の方々にオンラインで視聴いただきました。

講演では、まず前掲書の訳者である鈴木俊洋氏に「科学論の『第三の波』と技術哲学」と題して、科学論の
「第三の波」として専門知を擁護しなおす上での選択的モダニズムの民主主義的なあり方について解説いた
だき、技術哲学の観点から構成的技術評価(CTA)や価値感応型デザイン(VSD)の考え方を補足することで科学技術を民主的かつ道徳的に展開していく方途を論じていただきました。次に登壇いただいた城山英明氏には、「科学・技術に関わる政策過程における専門家とステークホルダーの役割と課題」と題して、科学技術に関する公共政策の問題に埋め込まれた多元的な政治性のあり方、さらにはそれに対する民主的なアプローチのあり方について、複合的なリスクへの対応が求められる原子力安全規制や新型コロナウイルス感染症対策でのさまざまな立場の専門家とステークホルダー、さまざまな分野の専門家間のコミュニケーション分析を通じて論じていただきました。最後に登壇いただいた内田麻理香氏には、「科学コミュニケーションからの提題―専門知と欠如モデル―」と題して、欠如モデルと一方向コミュニケーションを混同しつつ科学啓蒙かその批判にとどまりがちな日本の科学コミュニケーションに対して、「第三の波」の議論を参考にしながら垂直/水平モデルという新たな分類の基準を導入することで、専門家と市民や社会の間を取り持つ対話的専門知の担い手となるフクロウ的な科学コミュニケーターの存在の重要性を論じていただきました(専門家をワシのような鳥類に喩えると、フクロウは顔の向きを変えて二つの異なる方向を見ることができる存在を表す)。

これらの講演後に休憩をはさんで、指定討論者の夏目賢一氏が「第三の波」の理解における科学者と技術者・工学者との違いや、フクロウ委員会を担う社会科学系人材をどこに求められるかなど、とくに日本の現状についての問題提起をおこない、それに対して各講演者から回答いただき、さらに会場からの質疑も交えてさまざまな視点からの総合討論がなされました。

この本シンポジウムの内容は、講演者の方々にさらに今回の議論を踏まえて考察を深めた論考をご準備いただき、『科学技術社会論研究』22 号の特集として出版される予定ですのでご期待ください。今回のテーマで研究を進められている方は、ぜひ『科学技術論研究』に論考を投稿いただき、本テーマの学会内での活発な議論の展開にご参加ください。なお、本シンポジウムは、2023 年 6 月に国際技術哲学会が開催されることも念頭において企画されました。この国際学会は本学会がホストとなって日本に誘致しました。皆さんもぜひ参加とともにご発表も積極的にご検討いただければ幸いです。

総合討論の様子。左から城山英明氏、鈴木俊洋氏、内田麻理香氏。

科学技術社会論学会ニュースレター 2022年度2号(2022年11月15日発行)より転載